自己点検・自己評価報告書

Ⅰ. 社会科学研究所の現状と展望
将来の展望

 社会科学研究所の将来は、生じている諸問題に適切に対処しながら、以上に見てきた現状の発展方向を確認しつつ、展望されるものとして考えることができる。これまでの比較・総合・実証の方法に基づいた社会科学的研究の意義を改めて検討し、再構築を図りつつ、スタッフの自主的、創意的基礎研究を土台に全所的プロジェクト研究を推進すること、また、研究活動の中心的な対象である日本社会研究について、研究所をその国際的拠点として構築していくこと、さらにそれらの基盤としてのセンターの活動を発展させることが中期的な研究所の使命である。具体的には以下のような課題として示すことができる。

1) 国際的プロジェクト研究の推進

 21世紀の日本社会が直面する基本的な課題を研究テーマとして設定し、全所的に取り組む複数のプロジェクト研究を相互の関連性を枠づけながら重層的に立ち上げる。従来、「現代日本社会」、「20世紀システム」というような統一的なテーマを掲げてひとつのプロジェクトとして運営してきたが、これからは「連邦型」、「重層展開型」のプロジェクト研究の仕組みを追求する。また、これまでに蓄積してきた長期にわたる共同研究のノウハウを国際的なネットワークの中で活かして、海外の研究者との国際的共同研究を組織し、成果の刊行を日本語と同時に国際的に通用する言語で行うことを目指す。このために必要な研究支援体制を開発し、所内に構築する。また、若手研究者をプロジェクト研究にインボルブし、研究しつつ、養成する方向を追求する。このように、社会科学研究所は、プロジェクト型研究所のプロトタイプであることを目指す。

2) 欧米諸国とアジアの日本社会研究を結ぶノードの形成

 日本社会の社会科学的研究に関する国際的研究ネットワークのセンターとなることを目指す。特に欧米諸国とアジアの研究交流のノードとなることを意識的に追求する。すでに海外の代表的な日本研究機関と交流協定を締結しており、それらをより実質的な形でのネットワークに育てると同時に、交流の拠点を計画的に新たに形成していく。社会科学研究所は、外国人客員教授の招聘の大きな実績を持つと共に、他の研究機関に先駆けて多数の外国人研究者を受け入れてきた実績があり、「卒業生」は全世界で活躍している。この人的ネットワークは研究所の大きな財産であり、全所的プロジェクト研究への参加やインプットだけでなく、研究所の様々な活動に関して協力を期待できる資源であり、有効に活用していく。他方で、こうしたネットワークの展開の下で、研究所が外国の若手日本研究者を受け入れて研究上のサポ-トを行なうことの必要性は一層大きくなるので、このための制度の整備を図ることが重要である。

 国際的なレフリー雑誌"Social Science Japan Journal"は、社会科学研究所に本部を置く編集委員会が、全世界の日本研究者からの投稿を受け付け、レフリーを選考し、書評を依頼するという編集作業を担っている。これらの編集作業は、日本に関する社会科学的研究を国際発信するという意義があるだけでなく、国際的な日本研究者のネットワークの形成に貢献するものであり、この活動の意義は極めて大きい。編集体制の強化を図って内容の一層の充実を追求する。

3) 実証データの蓄積・開発・解析と発信

 附属施設である日本社会研究情報センターは、日本社会研究の実証データの開発・蓄積解析とオンライン発信、及び電子的研究コミュニケーションの新しい方法の開発と普及という2つの活動を一層充実し、発展させていく。日本社会研究情報センターに1998年4月に設立された Social Science Japan Data Archive は、総合的な社会科学分野の個票データを収集、整理、保存、提供する日本ではじめてのアーカイブであり、その存在は国際的にも高く評価されている。今後はより多くの研究機関に対してデータの寄託を依頼すると同時に、汎用性の高い調査データの開発や利用者へのサービス機能の充実を図っていく。さらに新たに数量的データ処理とその応用の方法の研究を進めることとし、このためにセンターの研究分野の増設を図る。世界に先駆けた(英語だけでなく、中国語やハングルなどを含む)多言語コミュニケーション・ネットワーク・システムの実験的開発もさらに継続する。東京大学では文理融合の総合情報学の研究・教育組織の立ち上げが計画されており、センターと予想される新組織との協力関係を緊密にすることが重要である。

4) 教育・トレ-ニング機能の開発・充実

 研究所の研究活動が教育活動と切り離せない形でかかわっている場合、また、研究活動に関わる形で教育活動を行なう意義が大きい場合、研究所が教育・トレーニング的機能を果たすことが必要である。社会科学研究所のスタッフは東京大学の各研究科に協力して大学院教育を担当しているが、研究所としても具体的に次のような on the research education を行なうことを検討する。

 (1) 日本社会研究情報センターは東京大学の学生・院生・教官に対して、海外のデータ・アーカイブのデータ入手の窓口となっており、利用者にデータ提供のサービスを行っている。また、研究所に保存されていた過去の調査をデータ・アーカイブに集積し、若手研究者に公開する作業を進めている。こうしたSSJデータ・アーカイブの利用の方法、実際の調査データ・資料の分析手法また研究所図書室に所蔵する貴重な文献資料の利用について、研究所のスタッフが、学内外を問わず日本社会の実証的研究を志す大学院生を含めた若手研究者に援助とトレーニングを行なうことが有益であり、必要であろう。社会科学研究所として、このようなトレーニングを提供するシステムの構築を検討する。

 (2) このようなトレーニングのシステムよりも広い研究所の教育活動として、研究所による日本社会の総合的社会科学的研究の成果を活かした大学院教育を考えることができる。この場合、日本社会研究は、社会科学研究所とは異なった方法や視角から東京大学の様々な研究機関において展開しており、これらの研究機関との協力によって新たな日本社会研究に関する教育組織を構築することも検討課題となるであろう。

5) 国際比較の視点に立った総合的実証的社会科学研究の新次元

 社会科学研究所は、4大部門制への移行の時期以来、国際比較の視点に立った総合的、実証的社会科学研究の促進を使命としてきた。柔軟で流動的な研究分野設定の下で、スタッフの自由な専門分野基礎研究を推進力として、重層的な共同研究が行なわれてきたのであり、これらが総体として社会科学研究所の研究活動を上のような方向にそって発展させてきたということができる。しかし、従来考えられてきた意味での「比較」・「総合」・「実証」が、現代の社会科学が直面する諸問題に対してなお有効であるのか、そのような問いがわれわれの前に立てられていると思われ、その方法的意味があらためて深く考察されなければならない。また、現状の記述として述べたように、現代社会が当面する具体的な政策課題に一層深くコミットすることも社会科学研究所の研究活動にとって重要な課題となっている。これらの問いや課題に応えるためには、自由な基礎研究と重層的な共同研究というフレームを踏まえながら、研究所の研究体制(4大部門)のあり方にもメスをいれ、社会科学研究所の社会科学研究に新たな次元を開くことを検討することが必要である。この検討に際しては、東京大学における今後の新たな研究施設及び研究ネットワークの形成との関連が十分に考慮されなければならない。

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