危機対応学・第3回釜石調査の記録
危機対応学・釜石調査とは
危機対応学・釜石調査チームでは、2018年8月21日から25日にかけて、釜石地域で現地調査を行いました。危機対応学・釜石調査は、社会における「危機」の位相と、それに対する「対応」のあり方について、東日本大震災の津波被災地である釜石地域の実態に基づいて、社会科学の観点から多角的に研究する総合地域調査です。具体的には、法学、政治学、経済学、社会学、歴史学、人類学、心理学といった社会科学諸分野の研究者、約30名が、次のような10の調査班に分かれ、質的・量的調査や文書調査といった様々な調査手法を持ち寄って研究しています。
地域政治班/地域行政班/地域防災班/地域企業班/地域漁業班/地域社会班/地域文化班/地区縦断調査班/高校調査班/法意識班
その調査期間は2016-19年度であり、昨年度から科学研究費補助金の研究助成を得て、本格的な現地調査をスタートしました。今回の調査は、昨年度に引き続き3回目となります。
第3回釜石調査
今回の調査は、本調査として、釜石市の全面的なご協力の下で、住民や市職員等の皆様に本格的なヒアリングを行いました。予定通り調査が進む班がある一方で、新たな知見を得て問いの立て直しを迫られる班もあり、全体として非常に充実した現地調査となり、来年度の取りまとめに向けて各班とも一定の成果を得ることができました。その調査日程は以下の通りです。
8/21 調査本部設置、ヒアリング調査等の開始
8/22-23 各班によるヒアリング調査の継続や文書調査、現地調査などの実施
8/24 各班によるヒアリング調査等の継続、地域企業視察の実施
8/25 各班によるヒアリング調査等の継続、シンポジウムの開催、調査本部撤収
地域事業所等の視察
8月24日には、調査参加者の有志を中心に、釜石地域の事業所等現地視察を実施しました。訪問させていただいた企業等は以下の通りです。
釜石市魚市場/復興道路(釜石IC)現場/株式会社エヌエスオカムラ/エア・ウォーター食品物流株式会社/岩手沿岸南部クリーンセンター/RWC釜石鵜住居復興スタジアム ほか
復興道路(釜石IC)現場 / 株式会社エヌエスオカムラ
RWC釜石鵜住居復興スタジアムにて入場を体験 / RWC釜石鵜住居復興スタジアム
いずれの場所でも、事業内容の紹介に加え震災後における様々な危機対応のあり方について丁寧にご説明いただきました。お世話になった皆さまに、深くお礼を申し上げます。
危機対応学シンポジウムの開催
今回の調査にあわせて、8月25日には「地域の危機対応学-中間報告-」というタイトルの公開シンポジウムを釜石市内で開催しました。このシンポジウムでは、まず、釜石市民および市職員の皆様の協力を得て行った「将来に向けた防災意識・行動・価値観調査」の結果を公表しました。「災害などの突然の出来事に即効的に対応するのが苦手な人ほど防災などの事前準備をあまり行っていない」、「子どものいる世帯ほど防災が手薄な傾向」などの発見が明らかとなり、「臨機応変力の醸成」、「小さな子どものいる家族への重点支援」等の取組みの必要性を提言しました。(詳細は9月に刊行される「危機対応学 明日の災害に備えるために」をご覧ください。)
その後、各調査班から調査内容の中間報告を行いました。報告タイトルと報告者については次のとおりです。(以下、発表順)
高校教育班:釜石高校・東大社研学校生活向上プロジェクト(田中隆一)
地域企業班:危機と企業中間報告(中村圭介)
地域政治班:地域政治班中間報告(宇野重規・佐々木雄一)
地域社会班:社会的記憶の継承プロジェクト(梅崎修)
社会的記憶はどのようにつくられるか~仮設住宅と仮設商店街から~(吉野英岐)
震災の記憶 聞き取り調査から(竹村祥子)
地域文化班:地域文化班中間報告(佐藤由紀・大堀研)
地区縦断調査班:東日本大震災被災世帯の住宅再建判断過程(石倉義博)
地域防災班:防災教育・地域防災に関する釜石調査に向けて(佐藤慶一)
報告終了後、総括討論を行い、行政の現場と管理で危機対応を分けて考える必要性、個人と社会の記憶の共有と分担のあり方、危機対応学の行政課題への貢献可能性、気持ちの復興に対する持ち家確保の役割、中小企業経営者の外部ネットワークの有用性、マニュアルと臨機応変力の関係性などについて、市民や行政関係者、研究者から意見をいただき、今後の研究成果のまとめに向けて重要な着想を得ることができました。
会場には野田武則釜石市長をはじめ約50名の方々が詰めかけてくださり、調査に対する興味関心の高さを感じました。参加いただきました皆様、本当にありがとうございました。