危機対応学・第1回釜石調査の記録

2017年8月31日

危機対応学・釜石調査とは

 危機対応学・釜石調査チームでは、2017年8月22日から26日にかけて、総勢30名の研究者・スタッフが参加して、釜石を中心とする三陸沿岸地域の現地調査を行いました。危機対応学・釜石調査は、社会における「危機」の位相と、それに対する「対応」のあり方について、東日本大震災の津波被災地である釜石地域の実態に基づいて、社会科学の観点から多角的に研究する総合地域調査です。具体的には、法学、政治学、経済学、社会学、歴史学、人類学、心理学といった社会科学諸分野の研究者、計35名が、次のような12の調査班に分かれ、質的・量的調査や文書調査といった様々な調査手法を持ち寄って研究しています。

釜石高校班/労働移動班/地域経済班/法制度班/地域社会班/地域政治班/地域文化班/復興事業班/地域企業班/地域漁業班/地区縦断調査班/社会意識班

その調査期間は2016-19年度であり、本年度から科学研究費補助金の研究助成を得て、本格的な現地調査をスタートしました。

地域社会連携と文理融合

 私たちがこれまで実施してきた希望学・釜石調査(第一次2006-9年度、第二次2011-13年度)と比較した場合、危機対応学・釜石調査の大きな特徴は、地域社会連携や文理融合といった新しい協働関係の構築を試みている点にあります。まず危機対応学・釜石調査は、東京大学社会科学研究所と釜石市がともに立ち上げた危機対応研究センターの中心事業の一つです。そのため、今回の調査研究には、釜石市役所から全面的なご協力をいただいています。さらに大槌町に所在する東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターとの連携も深めつつあります。今回の調査でも、大沢真理所長をはじめとする社会科学研究所のメンバーが国際沿岸海洋センターを視察させていただき、同センターの皆さまには企業視察やシンポジウムなどにもご参加いただきました。具体的な共同事業の展開はこれからですが、今後、地域の海洋や漁業に関する調査などでの協働が見込まれています。

第1回釜石調査

 今回の調査は、来年8月に実施予定の本調査にむけての予備調査という位置づけでしたが、班によってはすでに本格的なヒアリング調査に入ったところもあり、釜石市役所の全面的なご協力の下で、充実した現地調査を実施することができました。その調査日程は以下の通りです。

 8/22 調査本部設置、ヒアリング調査等の開始
 8/23-24 各班によるヒアリング調査や文書調査、現地踏査などの実施
 8/25 各班によるヒアリング調査等の継続、地域企業視察の実施
 8/26 各班によるヒアリング調査等の継続、シンポジウムの開催、調査本部撤収

各班では、現地において調査対象者の絞り込みと打ち合わせ、対象の企業や組織への挨拶と協力要請、文献・史資料の渉猟といった活動を行い、来年度に実施する本調査(第2回調査)にむけて論点の洗い出しから必要な情報収集の開始など、入念な準備を整えました。

地域企業の視察

 8月25日には、調査参加者の有志を中心に、釜石市役所のお世話で釜石・大槌地域の事業所現地視察を実施しました。訪問させていただいた企業は以下の通りです。

小野食品(株)大槌事業所/新日鐵住金(株)棒線事業部釜石製鐵所/釜石鉱山(株)/ (株)プラシーズ釜石工場


小野食品(株)大槌事業所 


新日鐵住金(株)棒線事業部釜石製鐵所 


釜石鉱山(株)鉄鉱石採掘跡/グラニットホール(花崗岩音響実験場跡)  


坑道入り口にて  

 いずれの事業所でも、それぞれの事業内容の紹介だけでなく、震災後における様々な危機対応のあり方について丁寧にご説明いただき、とても参考になりました。小野食品の小野昭男社長、釜石製鐵所の小笠原秀一氏、釜石鉱山の千葉慎吾氏、プラシーズの阿部山政彦工場長をはじめ、お世話になった皆さまに、深くお礼を申し上げます。

危機対応学シンポジウムの開催

 今回の調査にあわせて、8月26日には「震災を生きる:釜石市被災者アンケート5年間の記録」というタイトルの公開シンポジウムを、釜石市内で開催しました。このシンポは、危機対応学・釜石調査のメンバーである佐藤岩夫氏と、神戸大学の平山洋介氏を中心とする調査グループが震災直後から5年間にわたり、継続してきた被災者アンケート調査の結果を、広く市民に還元することを目的に開かれたものです。その具体的な内容については、佐藤氏による報告に譲りますが、会場には86名もの方々が詰めかけてくださり、大盛況でした。予想を超える参加者数に安堵しつつも、その関心の高さから、逆に復興半ばであることを痛感させられました。なお今回の調査には日本大学芸術学部映画学科の鳥山正晴氏と長谷川一巳氏が同行され、このシンポジウムをはじめ、調査風景などを撮影してくださいました。本当にありがとうございました。


危機対応学シンポジウム 

 最後になりましたが、今回の調査に当たって、計画や実行に関する様々な調整や企業視察のセッティングなどでお世話になった釜石市役所総合政策課の皆さまと、東京大学社会科学研究所危機対応学支援室の皆さまに、心よりお礼を申し上げます。(文責・中村尚史)