立命館大学で開催されたMeridian180のカンファレンスに参加しました
危機対応学プロジェクトがパートナーシップを結んでいるMeridian180が、このたび立命館大学にてカンファレンスを開催しました。危機対応学プロジェクトからは玄田有史が登壇させていただき、これまでのMeridian180との取り組みをご紹介してきました。
立命館大学では、アメリカ・コーネル大学との友好関係を築いてこられた渡辺公三・元副学長が、昨年12月に急逝されました。カンファレンスの冒頭で、故人を偲んで参加者が黙祷を捧げ、そのご遺志をついで両校のパートナーシップの一層の発展を祈念しました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
最初に立命館大学の平岡和久教授が、立命館大学の取り組みにおけるMeridian180の意義についてご説明され、つづいてMeridian180の創設者であるコーネル大学のAnnelise Riles教授・宮崎広和教授が、Meridian180の成り立ちや今後のビジョンについてお話されました。そして最後に玄田有史が、これまでの危機対応学におけるパートナーシップの展開とMeridian180の魅力についてお話しました。
立命館大学 平岡和久教授
立命館大学は"Beyond Borders"というコンセプトを全学で掲げておられますが、偶然にもこの言葉はMeridian180のミッションと深くつながっているということが、プレゼンテーションを聞いている皆の印象に強く残りました。ここではこの「境界を超える」という言葉をキーワードに、私たちが超えるべき境界とは何かという観点で、講演の概要をご紹介します。
国境を、言葉の壁を超える。
Annelise Riles教授は、Meridian180というプロジェクトが、2011年の福島原発事故を受けて将来の「危機に対応するために」設立されたものであると説明しました。まだ見ぬ危機への対応を考える際に絶対に必要だとRiles教授が考えるのが、"Diversity"です。多様な専門分野、多様な職業的バックグラウンド、そして多様な国籍です。Riles教授は、Meridian180が英・日・中・韓の4ヶ国語同時通訳で運営される意義を強調しました。たしかに近年、世界的にみればアカデミックな議論のほとんどが英語で行われるようになってきています。しかし、そのことによってどれだけ多くの人がその議論から排除されてしまうことか。特に中国・韓国・日本は多くの人口を抱えて重要な地政学的なポジションを占めながらも、英語の言論空間からは切り離されがちです。研究者ですら、気合を入れて英語で論文を書けたとしても、気軽に英語で議論に参加するというのはなかなかハードルが高いものです。そうした、英語でないがゆえに失われてしまう議論をすくい上げ対話を作り出すために、Meridian180は4ヶ国語での運用にこだわり続けています。当然、4ヶ国語の翻訳には多くの費用がかかります。「しかしそれはやらなければならないことであり、続ける価値のあることだと考えています。」という宮崎教授の言葉に、新しい言論空間を拓くという決意がみえました。
Meridian180創設者・コーネル大学Annelise Riles教授
大学を、制度の壁を超える。
Meridian180はもともとアメリカの名門コーネル大学を母体として作られた研究ネットワークですが、多くの大学の研究者や、多様な実務家を巻き込んで発展をとげました。現在は大学から独立した財団を設立し、多様な大学や企業から支援をうけるNPOとしての運営を目指しています。その根底にあるのは、大学を取り巻く環境が「競争から協働へ(From Competition to Collaboration)」と変化しつつあるという認識です。もともと、大学は人材を囲い込み、研究資金を取り合い、大学ランキングで順位を上げることを目標に競争してきました。しかし世界が直面する危機に備えるためには、大学がお互いのリソースを持ち寄ってより大きな目的のために協働する必要があります。Meridian180はそうした大学間の協働を目指しているため、既存の大学の制度に埋め込みきれない難しさがあると宮崎教授は指摘します。各大学のランキングを上げることに直接にはつながらないかもしれない活動に対して、どのように理解を得ていくか――既存の「大学」という制度に対するオルタナティブのあり方に知恵を出し合っていきたいと宮崎教授は呼びかけました。
コーネル大学エイナウディ国際学研究センター 宮崎広和所長
自分を、時間の壁を超える。
玄田の講演で多くの方に印象に残ったと感想をいただいたのが、「Meridian180に関わるとどのような良いことがあるか」ということです。玄田は「希望学」「危機対応学」などの学際的な研究プロジェクトにおいて、Meridian180の学際的な議論の中から多くのインスピレーションを得たといいます。Meridian180のコミュニティを特徴づけるのは"Weak Ties"です。普段から顔を突き合わせる研究仲間はいってみれば"Strong Ties"であり、勝手知ったる安心感があります。Meridian180の付き合いは、専門分野も関心もまったく異なったオンライン上での付き合い――そのような「弱いつながり」はときに不安や居心地悪さも感じさせますが、その中から自分の研究に還元できる多くの知的な刺激やヒントとなる気づきを得たとご紹介しました。新しい試みをしようとするとき人は孤独になりがちだが、そんなとき、ふだん繋がりのない遠い所に同じ関心を持つ人がいることを知ることは、とても勇気づけられるといいます。さらに玄田は、「『そうはいっても忙しくて新しいプロジェクトに関わる余裕はない・・・』と感じている方、私はそんな忙しい方にこそMeridian180への参加をオススメしたい」と呼びかけました。日々の忙しさの中でも、Meridian180を通じてふと新しい風を感じることでなにか新しい景色が見えてくる、そんなところがMeridian180に多くの人が惹きつけられる理由なのかもしれません。
東京大学 玄田有史教授
今回のカンファレンスに参加して、あらためて考えさせられたのは"先駆ける"ことについてです。時代に先駆けた取り組みは、成功した後から振り返ってはじめて新しさを認められるのであって、最初から多くの人にそのように見えるわけではありません。むしろそういう取り組みは既存の標準からの逸脱であるがために、ときに人々に居心地の悪さを感じさせ、非常識だと眉をひそめられることも多いのではないでしょうか。そんななかをみずからのビジョンを信じるものが軽やかに境界を超えて前に進む――Meridian180の取り組みは、まさにそんな"先駆ける"挑戦を私たちに見せてくれるように思います。