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新刊著者訪問 第12回

『政党政治の混迷と政権交代』
著者:樋渡展洋・斉藤淳 編
東京大学出版会 2011年:4500円(税別)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第12回となる今回は、政治経済を専門分野とする樋渡展洋教授の『政党政治の混迷と政権交代』(樋渡展洋・斉藤淳編, 東京大学出版会2011年12月)をご紹介します。

International Harmonization of Economic Regulation,
<目次>
序章 政党政治の混迷と政権交代―新選挙制度と長期経済停滞 ・・・樋渡展洋/斉藤淳
第I部 制約条件と政党戦略
第1章 選挙制度と政党戦略 ・・・フランセス・ローゼンブルース/斉藤淳/山田恭平
第2章 経済危機と政党戦略 ・・・樋渡展洋
第3章 財政危機と政党戦略 ・・・グレゴリー・W・ノーブル(豊福実紀訳)
第II部 構造改革と政党対立
第4章 格差問題と政党対立 ・・・イヴ・ティベルギアン(松田なつ訳)
第5章 郵政問題と政党対立 ・・・パトリシア・L.マクラクラン(松田なつ訳)
第III部 動員低迷と政権交代
第6章 地域経済変動と政権交代 ・・・清水薫/宮川幸三
第7章 地域間格差と政権交代 ・・・山田恭平
第8章 地域行財政改革と政権交代 ・・・斉藤淳
第IV部 政党政治の混迷
第9章 党首選改革と政党支持率 ・・・ケネス・盛・マッケルウェイン/梅田道生
第10章 内閣支持率と与党支持率 ・・・前田幸男
第11章 首相の権力強化と短命政権 ・・・ベンジャミン・ナイブレイド(松田なつ訳)
あとがき/索引

――この本は東京大学とイェール大学との協定によるプログラムの成果だそうですね。

 この本の発想自体は、現代日本の政治の同時代的実分析を行うという「失われた十年」の全所的プロジェクト以来のものです。従って、本書は『流動期の日本政治』『失われた10年を超えてII』の続編となります。但し、今回は全所的プロジェクトとしてではなく、たまたま小生がイェールに派遣された時期と政権交代が重なったこともあって、東大・イェール・イニシアティブの下での共同研究となりました。

 当然、アメリカの若手日本研究者は、選挙制度改革以降の政党政治の変容への関心が高く、それらを纏めた企画本も出版されていますが、この企画は、そのような研究者たちを動員して政権交代を起点にあらためて選挙制度改革からそれまでの動きを分析しようというものです。政権交代選挙の分析は、選挙後なされていますが、そこに至る政党政治の特徴を捉えた分析は寡聞にして知りません。

――2009年秋の衝撃的な政権交代を、本書はどういう視点でとらえていますか?

 実は、本書の特徴は、政権交代にいたる過程を通して、日本のみならず先進諸国の民主的統治における政党政治の役割を結果的に再検討することになったことです。但し、この問題意識は共同研究の過程で、数度の国際会議を経てできたものなので、執筆者によっても微妙に捉え方が違います。やや編者の私見に近いことを述べさせていただきますと、要は選挙制度改革だけでは、民主的統治に必要な頑健な政党制が確立されるとは限らず、選挙制度改革以来の政党政治の展開は、むしろ、自民、民主両党ともに政党機能を衰退させているのが、現在の政党政治の混迷の原因というものです。従って、政権党であった自民党は、政党としての機能の衰退が、その政権からの転落を齎したのであって、特に民主党が政党としての機能を強化させたがゆえに政権を掌握したのではないことを、本書は多面的に分析しています。

――政党政治の混迷の原因について更に教えて下さい。

 序章で書きましたように、先進民主国の政党は、選挙における議席最大化の要請と有能な統治者としての政策提示の要請という必ずしも整合的でない目的を実現するため、党組織を進化させてきています。その意味では、党の役職者選出や政策意見の集約を効率的に連動させ、相互補強的にする組織的な工夫が要請されます。日本の主要政党は、自民党も、民主党もそのような努力を怠ってきたつけが、政党政治の混迷として、現在、その問題点が現出しているのだと思います。

樋渡先生

――地方における農村の都市化、地方都市の合併など従来型集票の仕組みの崩壊が浮動票主体の選挙につながり、さらに長期安定政権の阻害に結びついているとのことですが、今後はどうなると予測されますか?

 経済状況を考えますと、今後は一層、全国的な政策課題の解決のため、主要政党は、地方の利益を中央に媒介するだけではその役割を果たせず、むしろ、場合によっては有権者や地元に負担を強いるような政策を提示せざるを得ない状況が、必要となってきます。その場合、政党として、全体の経済の発展のためには、それ相応の負担を地元有権者に求める政策を提示する必要があり、加えてそれを地元有権者に納得してもらうには、なぜその政策が将来のために不可欠か十分に説明する必要があります。そのためには、政党はその政策能力、党内調整能力を強化させる必要があります。現在のように主要政党がそのような党内改革を行っていない状況では、政党政治の混迷、即ち、主要政党内の混乱、政策決定の停滞、その結果としての短期の政権交代は避けられず、この事態は継続すると思われます。

樋渡先生
樋渡展洋(ひわたりのぶひろ)

東京大学社会科学研究所教授

専門分野:政治経済

主要業績
『流動期の日本政治「失われた十年」の政治学的検証』(三浦まり氏との共編著)東京大学出版会, 2002年.
『失われた10年を超えてII小泉改革への時代』(東京大学社会科学研究所編)東京大学出版会, 2006年.

――政局の動きがめまぐるしい状況ですが、最後に読者へのメッセージをお願いします。

 今年は、アメリカでは大統領選挙の年です。アメリカ大統領選挙では、予備選を入れますともう1年以上、党内の政策討論会や政策論議をしていますし、これからも両党の大統領候補の討論会が開かれます。そのためには何千億円の桁の莫大な政治資金が集められ費やされ、現職と挑戦者の政策的有能さが連日議論されています。このような予備選挙の導入、大々的な全国党大会、マスコミを通した各党の宣伝合戦は、実は、有権者の政治的関心を惹き付け、各党の政策を一般有権者にも周知させ、政治資金を献金してもらうためのもので、二大政党が競って工夫を重ねてきて現在に至っています。

 このような大統領選挙と日本の首相を選ぶ総選挙を比較した場合、いたずらに政治献金や選挙活動、有権者の政治参加を(規正の名のもとに)規制してきた日本の政党がいかに、現職議員の既得権益保持のため、党内民主化の競争的努力を怠ってきたかは一目瞭然です。アメリカ大統領選挙のあり方(勝敗でなく)とともに日本の政党競争のあり方を見ていただければ、本書で主張したかった、日本の政党の機能衰退と政党政治の混迷、それはとりもなおさず民主的統治の未成熟ですが、それが理解いただけると思います。

(2012年10月19日掲載)

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