第35回ワークショップ:「社会科学における測定問題:Understanding Measurement in Social Science」
日時:2024年10月30日(水)9:30~11:00
場所:オンライン(Zoomミーティング)
対象:所員+関係者のみ
全体要旨:法本ワークショップでは、全所的プロジェクトから刊行予定の二巻の書籍に収録される章をもとに、社会科学における測定の問題について報告を行う。特に、記述的測定における課題と倫理的測定に関する根本的問題を中心に検討する予定である。
報告者1:松村 一志 [成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科]
題目: 自然を測る、社会を測る--「大量観察」から「ビッグデータ」へ--
報告要旨:ビッグデータやデータサイエンスの流行に見られるように、今日では社会の定量化が進んでいる。しかし、定量化が進められたのは今回が初めてではない。19世紀もまた統計学の「熱狂時代」と言われてきた。では、19世紀と21世紀の「定量化」はどう異なるのか。本報告では、この問題を「測定」の歴史という観点から考えていく。具体的には、まず、「測定」をめぐる既存の歴史叙述を検討する。次に、19世紀における天文学から心理学への流れに注目し、観測誤差に関する確率論の登場が、観察・実験の営みにもたらした変化を「回数」への関心という観点から捉える。さらに、同時期の天文学から統計学への流れに注目し、同じ変化がこちらでは「大量観察」という発想をもたらしたことを確認した上で、統計学の発想が社会学的な説明様式の成立をどう準備したかを検討する。最後に、こうした19世紀の展開との対比において、21世紀におけるビッグデータの普及を捉え直し、「社会を測る」という営みの今日的な特徴を指摘する。
報告者2:押谷 健 [早稲田大学政治経済学術院]
題目:測ることができない価値はあるか?:帰結化戦略の批判的検討を通じて
報告要旨:価値の測定は、我々の普段の生活のおける決定にとっても、また法や政策の社会的な決定にとっても、よく慣れ親しんだ営みである。「何をなすべきか」について考えるとき、それぞれの選択肢が生み出すと期待される価値の総量を測定し、より多くの価値を実現する行為を選択するべきである、とするのは自然な発想のように思われる。しかし、あらゆる実践的な推論がこのような形式をとるのか、それとも個人の義務や権利のように、何らかの意味で「測定」になじまない価値も存在するのかをめぐっては、根強い論争が存在する。本章では、倫理学における「帰結主義」と「非帰結主義」の論争――とくに、近年注目されている「帰結主義化(consequentializing)」の方法をめぐる議論――の検討を通じて、こうした「価値の測定」をめぐる倫理的な問題を考察する。最終的には、帰結主義(および帰結主義化)を提唱する理論家が前提としている行為のモデルは、通常の意味において「測る」ことができない価値の存在を見過ごしているため、理論的にも実践的にも限界を有している点を指摘したい。