ワークショップ

第24回ワークショップ:「G.ミュルダールの「価値前提の明示」の方法論について:On Gunnar Myrdal's methodology of "explicit value premises"」

報告者藤田菜々子 [名古屋市立大学大学院経済学研究科]

日時:2023年12月19日(火)15:00~16:40

場所:ハイブリッド(対面+Zoomミーティング)
   東京大学本郷キャンパス赤門総合研究棟5階 センター会議室(549号室)
   http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_08_02_j.html

対象:一般公開

報告要旨:「社会科学のメソドロジー」に寄せて、スウェーデンの経済学者(自称「社会科学者」)グンナー・ミュルダール(Gunnar Myrdal: 1898-1987)の「価値前提の明示」の方法論について、その特徴や意義について考察する。
 ミュルダールは『経済学説と政治的要素』(1930年)において、古典派・新古典派といった伝統的主流派の経済学に潜む暗黙のうちの自由主義的な価値判断を批判的に指摘し、経済学が客観性と実践性を両立しうる方法論が必要であると説いた。そのとき彼が示した「経済技術学」の立場は中途的であったが、第2次世界大戦中のアメリカ黒人差別問題調査をまとめた『アメリカのジレンマ』(1944年)において、「価値前提の明示」の方法論を確立した。ミュルダールの経済学において、「価値前提の明示」の方法論は累積的因果関係の理論と結びつき、彼が福祉国家や開発経済や平和などの諸問題を論じていく際の方法論的・理論的基礎となった。
 事実認識と価値判断はいかなる努力をもってしても切り離すことはできない、というのがミュルダールの最終的立場である。そのうえで、重要なのは価値判断を自覚し、「価値前提」として明示し、隠さないことだという。それにより、価値判断を論理的に制御でき、分析の範囲を決め、政策や改革の方針を提言できる。価値前提の選定条件がいくつか挙げられたが、彼自身は「平等」を最も重視していた。「平等」の視点に基づく分析と政策提言・啓蒙が、彼の多様な論考に通底する特性である。
 ミュルダールの方法論の現代的意義は、客観性とともに実践性を求めるという経済学的関心に基づく独自性に認められるが、それだけでなく、価値前提という分析視点を明示することを通じて学問領域の境界を超えた諸要因を含む幅広い分析を志向していることにもあるだろう。