第14回ワークショップ:「歴史記述による経済理論の構築にむけて:Constructing Economic Theory Through Historical Thick Description」
報告者: 山本浩司 氏(東京大学)・矢島ショーン 氏(東京大学)
日時:2022年11月1日(火)15:00~16:40
場所:オンライン(Zoomミーティング)
対象:一般公開
報告要旨:本発表は、詳細な歴史記述を基礎に、経済主体の理論の構築への貢献を目指すものである。長い間理論的な学問であった経済学では、1990年代のいわゆる「実証革命」以降、現実のデータを用いた研究手法が主流となってきた。そうした潮流の中、歴史データを用いた研究も活発に行われている。しかし、歴史データを用いた既存の研究は、経済成長や長期の制度変化を軸としたマクロ現象の解明と、因果関係の識別を目的としたデータの渉猟に関心が集中している。結果として、手紙や日記や議事録などの史料群を使用して積み上げられてきた豊富な質的分析の成果は、経済主体の意思決定プロセスについての理解にほとんど活用されていない。経済活動を日々行う主体の意識や決定プロセスをめぐる膨大な質的情報を、もしもエビデンスとして活用できるとしたら、「実証革命」を経た研究潮流はどのような発展を遂げるのだろうか。 以上のような関心をもって、本研究では歴史上の経済主体をめぐる詳細な事例研究を元に、経済学における経済主体の理論構築に向けた論点の提起を行う。その際に本研究が特に着目するのが、「ステレオタイプ」や「社会的イメージ」が経済主体の意思決定に与える影響である。近年、多くの経済学のラボ・フィールド実験が、他者から付与されるイメージが経済主体の行動を規定することを明らかにしつつある。発表者はこれまで、近世イギリスと近代ドイツを対象に、社会からの風刺・批判を受けた経済主体が、それをどう認識して、いかなる行動を取るのかを、手紙や企業内部の経営史料を用いて分析してきた。これら歴史的事例研究には、負の社会的イメージを前にした経済主体の意思決定をめぐる豊かな情報が含まれている。本発表では、理論的問題関心を整理した上で歴史的実証研究とミクロ経済学の新たな接合点を探ることにしたい。