ワークショップ

第11回ワークショップ:「KKV論争の後で、質的研究者は何を考えるべきか?: What should qualitative researchers consider after the KKV controversy?」

日時:2022年5月17日(火)15時~16時40分

場所:オンライン(Zoomミーティング)

報告者井頭 昌彦(一橋大学大学院社会学研究科)

対象:所員のみ

報告要旨:1994年のKKVの出版以降、社会科学方法論の論争においては「質的アプローチを用いた研究から一般的主張や因果主張を結論することができるか」「その主張は説得的か」「その主張の説得性を担保する仕組みはどのようなものか」といった問いがとりあげられてきた。これに対する質的研究陣営からの応答は膨大な数にのぼり、また「質的」とカテゴライズされる研究アプローチの多彩さもあって、論争がどこまで進みどのように着陸したのかを見積もることは難しい状況にある。本報告では、そうしたリアクションの中から代表的なものをとりあげ、適切な応答になっているものとそうでないものとをよりわけつつ、質的研究に関する社会科学方法論論争においてなお残されている論点を抽出することを試みる。 なお、本報告でとりあげた質的研究陣営からの応答は、政治学分野において提出されたものが主であり、それは質的研究批判に対する可能な応答群の一部を占めるに過ぎない。そもそも「質的研究」というカテゴリは、《統計的手法を用いない研究群》という残余的カテゴリとして機能してきた側面があり、「質的」と呼称される各研究伝統は何らかの統一的な手法や論理を共有しているからそこに分類されているわけでは必ずしもない。したがって、分野事情の多様性は当然想定すべきであり、ある分野では説得的な応答として成り立っていた議論が別の分野では利用できない、といったことも普通に起こりうると考えるべきだろう。いわゆる「質的研究者」の中には、本報告でとりあげられる《質的研究批判への応答》のいずれにも「自分にはフィットしない」と感じられる方がおられることと思う。そういう違和感についてはぜひご指摘いただき、今後、それぞれの分野・伝統が有する個別の事情を踏まえた上での応答の多様性を検討していければと思う。本報告の内容は、そうした作業を進めていく上で、最低限抑えておくべき先行研究の整理、という位置づけになる。