第5回ワークショップ:「政治コミュニケーション研究におけるフィールド実験:Field experiments in political communication research」
報告者:小林 哲郎 氏(香港城市大学・メディアコミュニケーション学部・准教授)
日時:2021年10月19日(火)15時~16時40分
場所:オンライン(Zoomミーティング)
対象:一般公開
報告要旨:政治学における因果推論のツールとして実験は十分に定着したが、その応用はサーベイ実験に大きく偏っており、その他の実験デザインが用いられることは比較的まれである。メディア効果論を主要な柱とする政治コミュニケーション研究においても、状況は同じである。実験室実験やサーベイ実験の多くでは処置は一回きりであり、またアウトカムの測定までの期間が短い。したがって、処置効果の持続性や長期的な効果がしばしば不明であり、いわば"a knee jerk reaction"しか検討できていないという批判が付きまとう。さらに、実験室実験やサーベイ実験では実験状況が非現実的であったり、シナリオ実験など刺激の仮想性が高いことも知見の生態学的妥当性に対する疑問を投げかける。これらの限界に対処する一つの方法は、実験参加者の日常生活に埋め込まれた形で長期にわたって処置を行うフィールド実験である。フィールド実験は実験環境におけるノイズも大きく実施のコストも概して高いが、デジタルメディアの普及によってより柔軟な形でデザインをすることが可能になりつつある。本発表では、発表者が過去に行ったフィールド実験を紹介し、その過程で経験した方法論的、倫理的なハードルについて参加者と共有して議論したい。具体的には、ソーシャルメディアを用いた選挙キャンペーンの効果に関するフィールド実験、疑似ポータルサイトを用いた政治的学習に関するフィールド実験、携帯アプリを用いたフィールド実験を紹介する。