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2022年度第4回研究会開催(社会科学の哲学)報告者・倉田剛(九州大学)

日時:2023年2月7日(火)15:00~16:40

場所:オンライン(Zoomミーティング)

タイトル:社会存在論とチーム推論の理論:Social Ontology and Theory of Team Reasoning

報告者:倉田 剛 氏(九州大学大学院人文科学研究院)

対象:研究会メンバーのみ

報告要旨:「社会存在論」とは、社会的現実を構成する基本要素の本性およびその存在様態についての探究であるとともに、「最良の説明を与える社会科学の諸理論が、それらの要請する存在論において、どんな存在者に訴える必要があるのか(社会科学の存在論的コミットメント)を研究する学」でもある(R. トゥオメラ)。それは、互いに異なる出自をもつ複数の主題(「社会的事実の基礎づけ」、「集団と個人との関係」、「慣習と制度」、「社会種(社会的カテゴリー)」など)からなる学問領域であるが、その中心となるのは、共同行為の分析を出発点とする「集合的志向性」の理論だと考えられている。
 一方、「チーム推論の理論」は、標準的なゲーム理論における協調あるいは協力をめぐるパズルを解決するために、合理的選択理論の内部でR. サグデンとM. バカラックのそれぞれが独立に提案した理論を指す。それは、合理的選択理論における従来の問い「〈私〉は何を欲するのか?」、「〈私〉はそれを得るために何をすべきか?」から、新たな問い「〈私たち〉は何を欲するのか?」、「〈私たち〉はそれを得るために何をすべきか?」あるいは「私はそれを得るために(チームのメンバーとして)どのような役割を果たすべきか?」へのシフトを可能にする理論として理解される。
 チーム推論の理論は、〈私〉に加えて〈私たち〉という概念を合理的選択理論の枠組みに組み込もうとする点において、部分的にではあるが、社会存在論(集合的志向性の理論)と基本的な考えを共有する。なぜなら、一部の社会存在論者たちは、同様の仕方で「私--モード」とは区別される「私たち--モード」の志向的状態(たとえば「私--意図」に対する「私たち--意図」)を導入することによって共同行為を説明するからである。
 私はこのレクチャーの中で、(i)チーム推論の理論が社会存在論と共有する問題意識を明らかにしたうえで、(ii)チーム推論の概念が集合的志向性に関する既存の議論に貢献しうることを指摘し、さらに(iii)これら二つの理論は、社会科学のメソドロジー、とりわけ「方法論的個人主義」について再考を促すことを主張したい。