基本的活動

社会科学的日本研究の国際的拠点としての社会科学研究所

 社会科学研究所は、日本社会研究情報センターを足場としつつ、研究所の活動全体をつうじて、社会科学的日本研究の国際的拠点としての役割をはたすことをめざしています。そのさい研究所は、この役割を次の2つの視点からとらえています。

 ひとつには、社会科学的日本研究という場合、日本を固有の研究対象とし、したがって日本語を用いて研究を行うことを前提とした「日本研究(Japanese Studies)」「日本学(Japanology)」と、社会科学の諸ディシプリンにおける国際比較研究の対象のひとつとして日本を扱い、したがって必ずしも日本語使用を前提としない研究とがあります。社会科学研究所は、社会科学的日本研究としてこれら2つの方向を視野に収め、研究交流を進めています。

 もうひとつは、日本の社会科学が伝統的に深いつながりをもってきた欧米の日本研究と、とりわけ近年勃興しつつあるアジアの日本研究とをつなぐ結び目の役割をはたすことです。この点では、欧米の側から見てもアジアの側から見ても「東アジアの中の日本」という視点をもつことが重要になっており、社会科学研究所も、この方向でより意識的な研究交流を展開することが求められています。

Social Science Japan Journal(SSJJ)

 社会科学的日本研究の国際的拠点としての社会科学研究所の役割を物語るもっとも代表的な活動は、社会科学的日本研究の専門的英文レフリー雑誌“Social Science Japan Journal”(SSJJ)です。

 SSJJは、オックスフォード大学出版局(O.U.P.)から年2回発行され、98年4月の創刊以来、2005年4月で8巻計15号を迎えています。日本の国立大学が、外国の民間出版社と提携して、英文による社会科学系の雑誌を世界に発信したのはSSJJが初めてであり、その後、国立大学や付属研究機関が海外の出版社と連携しつつ英文雑誌を編集・刊行するさいのひとつのモデルケースとなっています。

 SSJJは、第3巻第2号以降、(1)一般投稿論文、(2)サーヴェイ論文、(3)書評論文、(4)書評の4つの分野から構成されています。一般投稿論文は、政治学、経済学だけでなく、社会学、労働経済学、人類学、経済史・社会史などの分野から幅広く募っており、分野を問わない総合性がSSJJの特徴です。また、例えば「日本の雇用関係の変化」「日本の司法改革」「大学の法人化問題」「日本とドイツのNGO活動の比較」など、現代日本社会のホットなテーマについて、サーヴェイ論文の形式でいち早く研究情報を提供しています。書評は、日本語で書かれた書籍は主として外国人が、英語で書かれた書籍は日本人が書評するという、ユニークな方式をとっています。一般投稿論文は、平均して3名のレフリー、サーヴェイ論文は1名のレフリーによる審査をへたうえで掲載されています。こうした厳格な審査のため、SSJJの論文採用基準はきわめて厳しく、これが論文の質の高さを維持する背景になっているのです。

 編集は、社会科学研究所のスタッフを中心とし外国人多数を含む14名の編集委員会が、欧米諸国、アジア諸国、日本の現代日本研究者によって構成される国際アドヴァイザリーボードの支援を受ける形で行っています。また、助教授としてSSJJの編集作業に専念するマネージング・エディターを配置することによって、英文雑誌としての質を確保していることも特筆されるべき点と言えるでしょう。

 SSJJは、O.U.P.をつうじて市販されるほか、アジア、ラテンアメリカ、ロシア・東欧諸国などの大学や日本研究機関には、国際交流の観点から、社会科学研究所として寄贈しています。また、O.U.P.の方針により、オンライン・ジャーナル化も進展しています。O.U.P.は、世界の主要大学と「コンソーシアム契約」(O.U.P.が発行する主要な理工学系・社会科学系の雑誌をパッケージにして大学と年間契約を結び、オンライン上で閲覧できるようにする方式)を進めていますが、そのパッケージにSSJJが選ばれています。2004年からは、「P>P方式」(紙媒体で刊行する前に、最終編集の終わった論文や書評を、随時オンライン上に掲載して閲覧に供する方式)が導入されています。これらによってSSJJへのアクセスは飛躍的に拡大しました。

 このように、SSJJは、社会科学系の国際ジャーナルとしての高い評価を確立しています。今後は、質を落とすことなく発行頻度を増やすことができるかどうかを、この事業のために社会科学研究所が独自に投入している人材の安定的確保の見とおしを踏まえて検討することが課題になっています。

英文ニューズレター“Social Science Japan”とネットワーク・フォーラム“SSJ Forum”

 社会科学研究所は、おおむね年に3回のペースで英文ニューズレター“Social Science Japan”を刊行しています。1994年7月、日本社会研究情報センターの設置に先立って発刊された“Social Science Japan”は、社会科学的日本研究の国際的拠点としての社会科学研究所という観点から見てパイオニアとしての役割をはたし、2005年3月で31号を迎えています。

 “Social Science Japan”は、一定のトピックについての論点や研究動向を中心に、社会科学研究所内外の研究者や研究所の客員研究員などの寄稿によって構成されています。海外の日本研究者・研究機関を中心に配布されているほか、研究所のホームページからダウンロードすることもできるようになっており、幅広い読者層を持っています。

ネットワーク・フォーラム“SSJ Forum”は、日本の社会・政治・経済・法律全般について学術的な議論を展開するとともに、学会・研究会の開催情報、投稿募集、新刊情報、採用情報など、研究者にとって有益な情報を幅広く共有するための英語によるネットワーク・フォーラムです。電子メールを利用したディスカッション・リスト形式をとり、研究所スタッフがリスト・マネージャーおよびモデレーターとなって、参加者から送られてくる投稿を取捨選択した上で参加者全体に送信しています。フォーラムの質の維持向上を図るため、内外の研究者によるエディトリアル・ボードも設けられています。2004年時点の参加者数は、国内外約700名にのぼり、配信された投稿数は、2004年度上半期の場合、およそ200本となっています。過去の投稿は、キーワードによる検索が可能なSSJフォーラム・アーカイヴにおさめられています。

外国人客員教授と客員研究員・研修員

 社会科学研究所は、現在、日本社会研究情報センターに2つの外国人客員教授(Visiting Professor)のポストを持っています。このポストを利用して、世界各国から優れた研究者を3〜4ヵ月間ずつ招聘し、それぞれの研究課題に即して自由に研究を行っていただくとともに、その成果の一端を、所外にも広く公開されたスタッフ・セミナーにおいて報告していただいています。

 制度が発足した1992年度から2004年度までの13年間に招聘した外国人客員教授は50名に上ります。所属機関の国別では、アメリカ15名、ドイツ8名、イギリス5名、オーストラリア、韓国各3名、フランス、イタリア、中国、台湾各2名、スイス、ロシア、ポーランド、イスラエル、メキシコ、ブラジル、シンガポール、南アフリカ各1名の合計17ヵ国となっています。

 これらの客員教授は、日本研究(日本学)の分野の研究者か、または社会科学の各分野から国際比較研究の一環として日本を取り上げている研究者かのいずれかであり、社会科学研究所の国際交流がこれら両面に広がっていること、またこの外国人客員教授制度が、これら両面から社会科学的日本研究に貢献していることを物語っています。

 今後は、欧米とアジアの日本研究をつなぐ結び目としての社会科学研究所という観点から、また、社会科学研究所および東京大学の研究・教育プログラムへのより具体的な参画という観点から、外国人客員教授制度をいっそう効果的に運用する道を探ることが課題です。

 また、社会科学研究所は、それぞれが独自に来日・滞在費用を調達することを前提に、海外研究機関に研究者として所属する者(またはこれと同等の研究能力のある者)を「客員研究員(Foreign Research Fellow)」として、また海外の大学の博士課程在籍者(またはこれと同等の研究能力のある者)を「客員研修員(Foreign Research Scholar)」として受け入れ、研究上の便宜を図っています。2004年度には43名が在籍し、1950年代半ばから数えて、その数はのべ803名に達しました。この制度は、とくに海外における社会科学的な日本研究の担い手を養成し再生産するうえで大きな役割をはたしています。

 これらの客員研究員・研修員を中心とする英語による研究発表の場(研究会)として、“Contemporary Japan Group”が組織されており、研究所としてその運営をサポートしています。また、1999年度に実施された外部評価において、外国人研究員にたいする「インフラストラクチャーの貧困ぶり」が指摘され、研究所としての改善の工夫が求められたのを受けて、社会科学研究所が利用する赤門総合研究棟(旧経済学部棟)5階スペースの一部を外国人研究員の研究室に充て、従来の研究室と併せて研究条件の改善を図っています。社会科学研究所を足場とする研究活動がいっそう充実したものとなるよう、個々の研究者のニーズに応じて支援する体制をいっそう充実させることが今後の課題です。

国際的学術交流ネットワーク

 社会科学研究所は、東京大学が締結している6つの国際学術交流協定(中国社会科学院、ベルリン自由大学、ミラノ大学、ミュンヘン・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学、エル・コレヒオ・デ・メヒコ、マールブルク・フィリップス大学)の担当部局となり、さらに5つの部局間協定(インドネシア大学日本研究センター、シェフィールド大学東アジア学部、リヨン第2・第3大学/CNRS東アジア研究所、コロンビア大学東アジア研究所、ミシガン大学社会科学総合研究所・総合国際研究所)を締結しています。

 これらのうち、ミシガン大学社会科学総合研究所・総合国際研究所は、データアーカイブの活動をつうじて深い提携関係にあります。

 ベルリン自由大学の東アジア研究所には、長年にわたってスタッフ1名を半年ずつ派遣し、研究・教育の両面にわたる協力の実績を積み上げてきました。2004年度には一時中断しましたが、今後再開することをめざしています。

 CNRS東アジア研究所との研究交流も着実に展開されており、この間、毎年秋に1ヵ月程度の期間、研究所スタッフを派遣しています。また、東洋文化研究所とともに、日仏雇用システムの比較研究、産業集積の比較研究などの共同研究プロジェクトも企画されています。

 インドネシア大学日本研究センターとのあいだでは、国際協力事業団の研究協力事業として、本学東洋文化研究所と共同で研究協力活動を実施しています。研究所からの短期派遣専門家の派遣、国際協力事業団の長期カウンターパート研修の一環としての若手研究者の日本の大学院への受入れにあたっての協力、短期研修の受入れなど、その活動は多岐にわたっています。

 中国などからの留学生に対する大学院における教育を含め、相対的に後発の東アジアにおける社会科学的日本研究の発展に対して、社会科学研究所が現にはたし、また、今後いっそう期待されている役割には大きいものがあります。これに対して、欧米における日本研究が、日本から中国への関心のシフトにともない困難な時期を迎えていることも、見逃せない問題です。一方、地域主義比較プロジェクトに象徴されるように、アメリカ・ヨーロッパ・アジアにまたがる国際的な共同研究の必要性はいっそう高まっています。

 このようななかで、社会科学的日本研究の国際的拠点としての社会科学研究所の役割について、より体系的な見とおしをもって態勢を整えてゆく必要があります。そのさい、国際的学術交流について意欲と資質を備えた研究支援スタッフを要請し配置すること、外国人のための日本語教育のシステムを充実させること、研究室等の研究環境や住宅等の生活環境を整備することなど、全学的レベルでの条件整備も欠かすことができません。

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