新刊著者訪問 第2回

『労働法〔第3版〕』
著者:水町勇一郎
有斐閣 2010年: 3300円(税別)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第2回となる今回は、労働法学を専門分野とする水町勇一郎教授の『労働法〔第3版〕』(有斐閣)をご紹介します。

労働法[第3版]
<目次>
はじめに──労働法の性格を知り,その根底にあるものを考える
第1編 労働法の歴史と機能
第2編 労働法総論
第3編 雇用関係法
第4編 労使関係法
第5編 労働市場法
第6編 労働紛争解決法
むすび──日本の労働法の特徴と課題について,もう一度考える

――はじめに、この本の概要を教えてください。

 本のタイトルにもなっている「労働法」というのは、働く人(労働者)と会社(使用者)の間の労働をめぐる関係を取り扱う法のことをいいます。例えば最近問題になったものでは、格差問題、派遣切り、名ばかり管理職、メンタルヘルスといった問題について、法的に対応を考えるのが「労働法」です。この本は、こういった労働法をめぐるさまざまな問題を体系的に整理してまとめた、労働法の教科書です。

――法律の教科書というと、難しい条文をひたすら暗記するものというイメージがありますが、本書はそのイメージと大きく異なりますね。

 労働法については、これまでにたくさんの教科書が出ています。そのなかで、この本の特徴といえる点をあげるとすれば、1つは、具体的な事例をあげて問題をイメージしやすくしながら、それが労働法の全体像のなかでどこに位置づけられるのがという全体の地図(理論的な道筋)を明らかにしようと心がけていること、もう1つは、法と歴史や社会の関係を意識しながら、労働法が歴史や社会などに規定されながら動態的に変化している姿を描き出そうと試みていることにあります。

 法律(法学)がとっつきにくいとされる理由として、六法に条文がいっぱい書いてあってそれを暗記するのが法律(法学)であるというイメージや、法律って堅苦しいものであって世間一般の常識や現実から離れたものであるというイメージがあるようですが、本当の法律(法学)はそういうイメージとはちょっと違うものだと思います。法律(法学)のもっとも大切な点は、暗記(記憶)ではなく、社会の問題について考え(思考)、問題解決の方法について言葉で説明すること(説得)にあります。また、その内容は当然、歴史や社会のあり方との関係で大きく変化しています。そういう法律(法学)の核心やダイナミックな動き描き出すために、従来型の解説・暗記型の教科書ではなく、理論的思考や動態的変化を重視した教科書を書きました。

水町先生

――法律の専門家ではない人にとって、労働法を学ぶことは、「働くこと」を考えていくうえでどういった意義があるのでしょうか?

 一番すぐ役に立つ点は、働いている人にとっては自分の身を守ること、会社を経営したり管理したりしている人にとっては法令を遵守し(コンプライアンス)働きやすい職場を作ることに役立つと思います。働いている人にとって、どのように働くかは、その人の人生や生活に大きくかかわっていることですし、会社にとっては、どのように働いてもらうかは、企業の方向性や将来像を決める重要なポイントとなります。労働法は、このような点について、法的に規制を加える(守らなければいけない最低限のルールを守らせる)という側面をもつと同時に、労働者と会社との話合いを促す(当事者のコミュニケーションによって職場の問題の解決や予防を図るよう法的にインセンティヴを与える)という側面をもっています。

 労働法を知ることを通じて、労働者や会社の足元にある問題についてそれぞれが考え、意見や知恵を出し合い、その結果、労働者にとっては働きやすく、会社にとっては利益になる解決を得られる(その基盤となるシステムを作り出せる)ようになれば、それが労働法を学んだ1つのゴールといえます。

――労働法は、近年話題となっている格差問題や派遣切りなどの社会的課題について、どのように解決策あるいはその糸口を与えるものなのですか?

 例えば、格差問題については、法律で同一労働同一賃金原則を定めて、それを強制的に守らせるという方法があります。しかし、実態はそう単純ではありません。同一労働同一賃金原則といっても、何をもって同一の労働というか、労働の内容が違う場合はどうするかといった点については、1つの明確な答えがあって、それを全員が同じように守ればよいという状況(実態)にはありません。法律による解決というと、法律でルールを定めれば後はみんな守ってくれる、あるいは、みんな法律なんて守らないで終わるというイメージがあるかもしれませんが、それは本当の法の姿ではありません。

水町先生

水町勇一郎(みずまちゆういちろう)

東京大学社会科学研究所教授

専門分野 : 労働法学

主要業績
『パートタイム労働の法律政策』有斐閣, 1997年.
『労働社会の変容と再生―フランス労働法制の歴史と理論』有斐閣, 2001年.
『集団の再生――アメリカ労働法制の歴史と理論』有斐閣, 2005年.

 こういう状況のなかで、ヨーロッパでも「同一労働同一賃金」原則は多様な実態に適応しない(そのままの形で適用することはできない)と認識されつつあります。そこで、これに代わる方法として、「合理的な理由のない差別的取扱いは禁止する」という法原則を法律で定め、何をもって「合理的な理由」とするかについては労使の話合いを尊重するという方法が導入されつつあります。法といっても、上から強制するばかりではなく、現場での話合い(労使のコミュニケーション)を重視してそれを法のなかに取り込む工夫がなされているのです。こういう実態にあった工夫によって、労使の話合いを重視しながら格差是正を図っていこうという方法も、法の重要な機能(問題解決への道)の1つとなっています。

――最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

 法の本質は、社会の問題について自分で思考し、それを言葉で語ることにあるということを、この本を読んで体感し実践していただけたら、うれしいです。

(2010年12月1日掲載)

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