新刊著者訪問 第14回

『中国都市商業銀行の成立と経営』
著者:門闖
日本経済評論社 2011年:6600円(税別)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第14回となる今回は、中山大学(中国広州)国際商学院副教授・門闖さんの『中国都市商業銀行の成立と経営』(日本経済評論社2011年10月)をご紹介します。

中国都市商業銀行の成立と経営
<目次>
序章 課題と方法
第1章 中国の金融発展と都市商業銀行
第1部 中国都市商業銀行の成立と経営
第2章 都市商業銀行前史
-都市信用社からの転換を中心に
第3章 都市商業銀行の所有と経営
-地方政府による所有を中心に
第4章 都市商業銀行の経営効率性
第2部 浙江・湖北・四川三省の都市商業銀行
第5章 地域金融市場と都市商業銀行
-預金・貸出金の推移を中心として
第6章 都市商業銀行の経営
-経営者へのアンケート調査
第7章 都市商業銀行における外資導入と経営システム
-寧波市商業銀行と南充市商業銀行の事例研究
終章 中国の金融発展と銀行経営
附表/あとがき/参考文献/図表一覧/索引

――社研インタビューで所外の先生の著作をご紹介するのは初めてですが、本書は先生の社研在籍時代の賜物と伺っております。執筆から刊行までどういう経緯だったのですか?

 ご紹介して頂いた拙著は、2011年、社研の非常勤講師として在籍した時に刊行したものです。翌年、中山大学(中国広州)に就職し、現在、国際商学院で産業経済と地域経済の科目を教えています。本書は学術図書刊行助成により刊行したものです。ここで助成金を提供してくださった日本学術振興会に感謝を申し上げます。本書は私の博士論文を書き直し、再構成したもので、博論執筆の時間を含めれば、刊行まで6年間の半分は社研に在籍しておりました。博論を執筆し始めた2006年は社研でリサーチアシスタントとして働きはじめた年でした。出版助成を決めた2011年に、運よく社研の非常勤講師として採用され、社研を通して出版の手続きを行いました。すなわち、本書の「終始」とも社研で行われたといえます。ここで、本書の刊行で大変お世話になった先生方と事務の方々に厚くお礼を申し上げたいと思います。

――博士論文を再構成したものが本書、とおっしゃっていますが、博論ではどういう課題に取り組まれたのでしょうか?

 本書は、中国経済の学術専門書で、その課題は、1995年以降、中国の都市部に数多く設立された都市商業銀行を対象に、国有銀行によって支配されてきた中国の金融セクターにおいて、地域の金融が実体として成立しうるものなのか、そして成立しているとすれば、それがどのような仕組みで金融仲介機能を実現し、地域経済においてどのような意味をもつものなのかを実証することにあります。このような課題に対して、本書はマクロ分析や大規模銀行の研究を中心とした先行研究で描かれてきた中国の金融システムの構造的特徴を、都市商業銀行といった小規模銀行のミクロな視点から捉えなおすことによって再検討しました。

――ものすごく大きな課題のようですが、読みどころといいますか、本書の特徴について教えて下さい。

 内容は金融市場の地域分断や銀行のコーポレートガバナンス、経営効率性の計測といった学術的なものがある一方、銀行経営者のアンケート調査や外国銀行の中国進出など、実務家に興味がありそうな章節もあります。本書は、長年にわたり私が整理・構築した都市商業銀行のデータベースをフル活用し、これまでほとんど触れられなかった研究領域のテーマを高い精度、密度で実証したことが最大の特徴です。本書では、これまで注目されなかった数多くの事実や情報を提供しているので、おそらく専門家にとっても一般の読者にとっても、読むたびに新鮮な印象を受ける1冊になっていると思います。とにかく大量の文献や資料を駆使して、地域銀行の経営にかかわるさまざまなリレーションシップを明確に書きました。読者は、各自の立場からさまざまな銀行像を読みとることができると思います。また、地域銀行成立の歴史過程を通じて中国社会の構造と変遷を知っていただくことも、著者としての隠れた願いです。そのため、文中の注などを工夫しました。

門先生

(於:東京大学社会科学研究所 田嶋研究室)

――1995年以降次々設立された地域銀行、すなわち「中国都市商業銀行」とはどういう銀行ですか?そもそも中国では、中央銀行機能と市中銀行機能を併せ持つ「中国人民銀行」が唯一の銀行と思っていましたが・・・。

 都市商業銀行は日本ではあまりなじみのない言葉ですが、日本の「信用金庫」にあたるものです。これらの銀行は、かつて信用組合(中国語:信用社)の経営形態をとりながら金融業を営みました。政府の整理統合によって商業銀行に転換しました。これまで注目されなかったのは、営業地域が限定されたことと規模の小ささによります。しかし近年、都市商業銀行は成長のスピードが速く、金融機関総資産に占める割合が10%を超え、中国の金融セクターを分析するのに外せない存在となっています。

 都市商業銀行のもうひとつの特徴は中国的「官」と「民」を理解することにあります。これまでの中国の金融研究は国有銀行などいわゆる「官製銀行」を対象とする「官」の研究と、「合会」など個人レベルの民間金融を検討する「民」の研究が存在しました。しかし、「半官半民」、「非官非民」のグレーゾーンは見落とされてきました。都市商業銀行のような、政府の力で銀行へ転換した民間金融機関は、民の部分もあれば、官のところもあり、これこそは中国経済の特殊性と中国社会の特質を分析する重要な手がかりであるのに間違いありません。

――なるほど。それにしても中国というと、とにかく巨大なイメージです。膨大な資料やデータの収集など途方もなく大変だったのではありませんか。

 実は、資料とデータを収集する前に、テーマを決めるのもかなり長い時期苦悩しました。とくに、マクロの金融や財政の領域では、中国の金融エキスパートやMcKinnon、Allenなど世界有名な研究者が数多くの研究成果を出しており、参入する余地があまりありませんでした。フィールド調査の民間金融の分野でも、中国国内とアメリカの研究者による数多くの調査成果が存在し、オリジナルの研究を目標とするのは容易なことではありませんでした。おかげで都市商業銀行にたどり着くまで長い時間がかかりました。

 また、おっしゃる通り、データや資料の収集も想定以上に大変でした。資料を収集しはじめた1年目はほとんど進展がありませんでしたが、ここで感謝したいのは中国社会の開放です。2003年以降、多くの銀行は新聞やホームページなどを通じて年報を公表するようになり、内部資料に頼らなくても研究できるようになったのです。しかし、次に中国の広さと多様さが問題となりました。比較的規模の大きい銀行は、中国人民銀行の機関紙である「金融時報」を情報公開に選んだ一方、地方の銀行は地元の主力紙を選んだところも少なくありません。そのため、国内の友人に頼んだり、自ら現地の図書館に出向いて、新聞、年鑑をコピーしたりしました。そうやって3年余の時間をかけてようやく7割程度の都市商業銀行の年報を収集することができました。肉体的にも精神的にも大変苦労しましたが、振り返ってみれば、この資料収集の過程でいろんな研究のノウハウも身につけました。

門先生
門 闖(Men Chuang)

中山大学(中国広州)国際商学院副教授

専門分野:産業経済・地域経済

主要業績
「農村部の電気事業:吉林省を事例に」
田島俊雄(編著)『現代中国の電力産業』
昭和堂2008年2月.
「地方小型セメント工場の存立条件」
田島俊雄/朱蔭貴/加島潤(編著)『中国セメント産業の発展』お茶の水書房2010年2月.
「改革開放後城市金融発展歴程浅析」
田島俊雄/朱蔭貴/加島潤/松村史穂(編)
『海峡両岸近現代経済研究』(中国語)
東京大学社会科学研究所2011年3月.

――本書の執筆を通して、また新たに課題が見つかったと思います。最後に今後の抱負を聞かせてください。

 特定分野の資料やデータを定期的に収集し、データベース化する一連の作業は、今や私にとって、宝物をコレクトするように病みつきになっています。これからもこのような研究スタイルを貫いていきたいと思います。これまでの30数年間、成長が速く、変化も激しい中国経済に対して、研究の焦点は常に変化を追っている状況で、ミクロレベルにおける実体の進化を見落としたところが多いと思われます。しかし、中長期における中国経済の進化を究明するには、これら見落とされたミクロのダイナミクスを振り返る日が将来、必ずやってきます。もちろん、その日を待つために研究するわけではありませんが、評価されるかされまいか、地道に地域経済と産業経済の精度の高い実証研究を目指していきたいと思います。またビッグデータ時代のニーズに合うためにも、特定の原理論に基づいた研究より、いかにマイクロデータを利用して現実を描写し、そこから規則性を見つけるか、が重要になってくるでしょう。

(2013年5月24日掲載)

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