研究
社研セミナー
職業性ストレス研究の新たな可能性:産業の特殊性と従業員の主体性に着目して
横内 陳正(社会科学研究所)
日時:2024年1月9日(火)15時~16時40分
オンライン(Zoom)
※所内限りの開催となります。
報告要旨
職場でのストレスによる健康影響を巡っては,ストレス要因と健康アウトカムの理論的関係を示した様々な職業性ストレスモデルがこれまでに提唱され,改良・統合がなされてきた。これらのモデルの多くは,個人や職場環境の普遍的な側面を捉えることで,実証研究の共通の理論的基盤として,またエビデンスに基づくストレス対策の共通の指針として重要な役割を果たしてきた。その一方で,モデルに反映されない個別の文脈を十分に考慮できないことが課題であった。本報告では,この個別の文脈に含まれる側面として,産業の特殊性と従業員の主体性に着目することで,普遍性を志向してきた従来のアプローチを補完するような,職業性ストレス研究の新たな可能性について検討する。
より具体的に,1点目の産業の特殊性に関して,たとえば建設産業の技術者は,プロジェクトごとに異なる物理的,心理社会的環境のもと,内勤と外勤を行き来しながら働くことで知られている。こうした特徴的な職場環境や働き方は,ストレスの種類や程度だけでなくその健康影響にも関連すると予想される。そこで本報告では,建設産業を対象とした研究事例を通じて,産業の特殊性を考慮することの理論的,実践的含意について検討したい。
2点目の従業員の主体性に関して,従来のモデルの多くは職場環境の影響を一方向的に受ける存在として従業員を位置づけてきた。しかし,従業員は職場環境の影響を受けながらも,それに対して主体的に働きかけ,意味づけを行う存在でもあり,こうした相互作用の過程でストレス経験も変化することが予想される。そこで本報告では,ストレス経験の変化に着目した研究事例を通じて,従業員の主体性を考慮することの理論的,実践的含意についても検討したい。