研究
社研セミナー
グローバル法多元主義と抵触法:「考慮」という方法の検討を中心に
加藤紫帆(社会科学研究所)
日時:2023年5月9日(火)15時~16時40分
場所:オンライン(Zoom)
参加方法:所外の方はこちらのお申込フォームからお申込ください。前日にZoomのURLを送付いたします。
(申込締切日:5月8日 16:00)
報告要旨
本報告の目的は、グローバル法多元主義(global legal pluralism)の下での抵触法の役割を探るべく、現在、報告者が進めている法規範の「考慮」という方法に関する研究成果の一部を紹介することにある。
抵触法とは、国際取引や国際結婚のような複数の法秩序に関連を有する法律関係から生じる法的問題につき、いかなる国の法に準拠して判断すべきか(=準拠法の決定)、国際民事紛争であればいずれの国の裁判所が審理すべきか、また、いかなる場合に外国裁判所が下した民事判決の効力を自国で承認し強制執行を行うべきか、といった問題を扱う法分野を指す。従来、異なる国家法秩序間の調整という機能を担ってきた抵触法は、国家以外の主体が形成する規範と国家法とが法多元的な状況を生むと考えるグローバル法多元主義においても、様々な規範の対立の調整やその相互作用の分析を行うのに適した技術ないし学問として、その役割が期待されている。例えば、近年、特に移民による家族関係を巡る法多元的状況への対応として注目されているのが、「データ理論(data theory; Datum-Theorie)」又は「考慮(la prise en considération)」と呼ばれる方法である。これは、準拠法として指定された国家法の解釈・適用に際して、それ以外の国の国家法や非国家法を、事実(データ)として考慮するという考えを指す。この方法は、準拠法たる国家法を決定する伝統的な抵触法体系を維持したまま、問題となる家族関係と関連を有する非国家法(移民が母国で従ってきた宗教規範・慣習規範等)の組み込みを可能とするメカニズムとして、グローバル法多元主義の観点から注目を集めている。だが、法の適用と考慮の違いや、考慮の対象となる法規範の範囲、考慮の要件等、その方法論的意義や具体的内容を巡っては、学説上も裁判例上も予てより争いがあり、さらに、家族関係を巡る法多元的状況への対応として「考慮」 の有用性を探る具体的な議論は、緒に付いたばかりである。
そこで本報告では、まずグローバル法多元主義と抵触法との関係について簡単に確認した上で、「考慮」という方法を巡る国内・国外の学説・裁判例の分析を行い、同方法の具体的内容について検討し、グローバル法多元主義の下でのその有用性について考えてみることとしたい。