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世紀転換期アメリカ製造業の海外進出と東アジア市場:
国際関係経済史の試み
中村尚史(社会科学研究所)

日時:2022年12月13日(火)15時~16時40分
場所:オンライン(Zoom)
参加方法:所外の方はこちらのお申込フォームからお申込ください。前日にZoomのURLを送付いたします。

(申込締切日:12月12日 16:00)

報告要旨

 本報告の狙いは、教授任用からの10年間とその後のアメリカでの在外研究で生じた研究内容の変化を辿りつつ、現在、報告者が取り組みつつある「国際関係経済史」研究の一部を紹介することにある。 報告者は、これまで主として近代日本を対象とした経済史・経営史研究に取り組んできた。2000年代までの中心的な研究テーマは、日本の鉄道業史研究(『日本鉄道業の形成』)と、地域の視点から日本の産業革命を捉え直す研究(『地方からの産業革命』)であり、それらの研究には現在も引き続き取り組んでいる。一方、2007年頃から国際関係の視点で日本の産業革命を捉える研究をはじめた。2010年の教授任用後、その研究成果をまとめ、『海をわたる機関車』が刊行された。しかし、この本は日本の産業革命の国際的契機を探った研究であり、あくまで日本経済史・経営史の枠組みにとどまっていた。

 報告者は2021年夏から1年間、Harvard Yenching 研究所に滞在し、アメリカの貿易商、機関車メーカーやその関係者の個人文書、新聞、業界誌などの史資料をじっくり検討する機会を得た。その過程で、これまで気に留めていなかった2つの点に、あらためて気がついた。1つは、アメリカから見れば、日本、朝鮮、中国といった地域区別は絶対的ではなく、東アジアは一体として捉えられていることである。2つめは、19世紀末から20世紀初頭はアメリカ製造業が海外市場への進出を活発化する時期であり、欧州メーカーに伍していかに世界市場に参入するかを真剣に模索していたという点である。これまで「日本」という枠組みにこだわってきた報告者にとって、とくに前者は大きな気付きとなった。そして日本の立ち位置自体も、東アジアと欧州、北米という多地域間関係のなかで考える必要があると再認識した。

 以上のような経緯をふまえ、本報告ではアメリカ製造業の視点に立って、日本を含む東アジアの鉄道資材市場をめぐる国際関係経済史に取り組んでみたい。具体的には、20世紀初頭にアメリカ製鉄道資材を東アジアに売り込んだWillard C. Tyler (1856-1936)という営業代理人(sales representative)に注目し、19-20世紀転換期におけるアメリカ製造業の海外マーケティング活動の一端を明らかにしたい。それは、19-20世紀転換期に、アメリカ鉄道資材メーカーが、日本国内や日本帝国圏、そして中国で、急速に台頭する要因を解き明かすことにつながる。さらに、W.C. Tylerが鉄道資材業界誌や鉄道業界誌の記者を経て、営業代理人になり、アメリカ・メーカーの海外駐在員に転身していったことから、本報告で試みる彼の伝記的な研究は、アメリカ製造業の対外進出の原型を考える上でも、重要な事例になると考えている。


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