研究
社研セミナー
「中国広東省の産業高度化政策と実態―NIEs論と「世界の工場」論を超えて―」
伊藤 亜聖(社会科学研究所)
日時:2015年 10月13日 15時00分-16時40分
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)
報告要旨
本報告は中国経済のうち、省レベルで最大の経済規模を誇る広東省を事例として、広東省経済研究の視角とその変遷、世界金融危機後における現地における政策的取り組みと現地産業の変化について検討を加える。改革開放期の中国において、香港とマカオに隣接する広東省は経済特区の設置に代表される対外開放と市場経済化の先駆的地域として位置づけられてきた。中国国内の他地域と比べて「一歩先に進んだ」制度運用を許される環境のもと、1990年代には韓国、台湾、香港、シンガポールに続くアジア新興工業化経済(NIEs)の「第五の龍」とも呼ばれた。2000年代に入ると、広東省経済研究の視座はNIEsの延長としての性格よりも珠江デルタに形成された巨大な産業集積に注目する「世界の工場」としての広東省という面が強調される。しかし、2000年代後半以降に顕在化した労働市場における出稼ぎ労働者の不足と、世界金融危機後の外需の低迷により、広東省経済の発展モデルは重要な画期を迎えている。制度的には国内他地域における各種優遇政策の実施が見られ、もはや「一歩先に進んだ」制度運用の時代は終焉し、珠江デルタにおける賃金上昇を契機として「世界の工場」としての役割にも変化が見られる。広東省経済研究の視座の変遷を辿り、近年の現地経済の変化を検討することで、地域経済から中国・アジア経済を中長期的に捉える視点を検討する。