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男女賃金格差と就職氷河期入社の長期的影響-社内人事データを使った実証分析
大湾秀雄(社会科学研究所)

日時:2012年 4月10日 15時-17時
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)

報告要旨

 企業の人事データは、従業員や職の属性についての詳細な情報と企業の人事政策についての知識が活用できるため、内部労働市場のメカニズムを解明する上で極めて有効となりうる。本報告では、日本の製造業企業2社の人事データを用い、男女賃金格差がなぜ生じているのか、入社時の経済状況がその後の処遇にどういう長期的影響を与えているのか、という二つの問題について分析結果を紹介する

 学歴、経験などの個人属性をコントロールした上でも、独身の男女間で平均10%、既婚者でも13%の男女間(時間当たり)賃金格差が見られた。そのうち6%程度は、女性の昇進昇格の遅れによるものである。男女間格差の最大の原因として、欧米の先行研究でしばしば指摘される出産ペナルティがあるのではと予想し、その検証を行ったが、出産・育児休暇の賃金、昇進確率に与える負の長期的影響は全く認められなかった。子育てではなく、女性全体に傾向として見られる異動や労働時間の制約、あるいは統計的差別など広範囲な要因が存在するものと推測される。

 入社時の経済状況が長期的な処遇に影響を与えることはコーホート効果として広く知られているが、通常は入社時の景気が良いほど、将来の賃金に正の影響が表れるという順循環的な関係が指摘されてきた。しかし、コーホート効果は、複合的な要因によって生まれていると考えられる。好景気下では、よりマッチングの質の良い職の獲得、高い研修機会などの順循環的要因に加え、大量採用による同期との競争の激化や売り手市場による労働者の平均的な質の低下など、逆循環的な要因も考えられる。本報告では、就職氷河期には、出世競争の緩和により、将来の賃金、昇進には正の長期的影響が存在するという分析結果を紹介する。このことは、不況期に正社員として就職できた者と正社員になれなかった者の間には、好景気時に入社した者たちに比べより大きな格差が生じうることを意味する。


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