東京大学社会科学研究所

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中国の法治と人治
田中信行(社会科学研究所)

日時:2011年 3月13日 15時-17時
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)
*田中教授の最終報告となります。

報告要旨

 中国は1980年代からの改革・開放政策のもとで、それ以前の文革的人治の体制から脱却し、法治の体制へ移行することを目指して、改革を積み上げてきた。鄧小平から江沢民へと引き継がれた20年のあいだに、中国経済は市場経済への移行を進めただけでなく、WTO加盟をめざしてグローバル化にも対応していった。

 WTO加盟の達成後に江沢民政権を引き継いだ胡錦濤政権は、飛躍的な経済発展が生み出した格差社会の是正を目指して、「和諧社会」の実現を標榜したが、安定した社会の維持のために取り組んだのは、強権的な管理社会の実現にほかならなかった。しかもその手法は、鄧小平が唱えた党政分離とは反対の、党政一元化による人治的指導体制への回帰であった。

 一方で、市場経済化にあわせた法制度の整備が進展し、それにともなって市民の法意識は確実に向上した。なかでも2007年に制定された物権法が、私有財産の保護を明確にし、労働契約法が労働者の権利を強化したことによって、市民、労働者の権利意識が高まり、土地収用、強制立退きをめぐる紛争および労働争議が急増し、数千人規模の社会騒乱が続発するようになった。

 法整備が進む一方で、なぜ法治化がすすまないのか。胡錦濤政権の10年間を振り返って、その原因について検討する。


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