研究
社研セミナー
タイの政治変動と中央銀行の独立――韓国との比較研究
岡部恭宜 (独立行政法人 国際協力機構 JICA研究所)
日時:2010年10月12日 15時-17時
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)
報告要旨
中央銀行が政府から独立して金融政策を行うことは、政治家による拡張的な経済政策を回避し、物価と金融を安定させて経済成長の維持に貢献すると考えられており、現在、その制度は世界的に普及しつつある。最近の例では、タイの中央銀行(BOT)が2007年の法改正によって、独立性の法制化を獲得した。主な改正点として、BOTの目的が通貨と金融システムの安定維持であることが明文化されるとともに、総裁の地位(任命と解任の方法、任期)が強化された。
一般的に、政府が中央銀行の独立性を法制化することは政策上自らの手を縛ることであるから、それがいかなる時に行われるのかは学際的な争点となっている。しかし、タイの事例は従来の議論からは説明できない。また、同じ1997年に通貨金融危機に見舞われた韓国では1998年に中央銀行が独立したにもかかわらず、なぜタイでは2007年まで法制化されなかったのか。
本稿は、中央銀行およびその同盟者をアクターとして捉え直し、その政治的機会を重視する立場から、次のように論じる。BOTは財務省からの独立を従来求めてきたが、クーデターで成立した暫定政権の登場で初めて、その法制化を可能にする政治的機会が生じ、BOTはその好機を抜け目なく捉えた。ただし、暫定政権内の政治によって、実際の法制化の内容は必ずしもBOTの思惑通りとはならなかった。
最後に、韓国との簡単な比較研究を行い、韓国ではタイのような政治的機会が訪れなかったため、より早い時期に中央銀行の独立性が法制化されたにもかかわらず、その程度はタイよりも弱いものとなったと論じる。本研究の意義は、中央銀行の独立性という経済制度の形成について、政治的要因、とくに政治的機会の重要性を論じた点にある。