見える化とは

東京大学地域貢献「見える化」事業とは

社会科学研究所
全所的プロジェクト
危機対応の社会科学

 指定国立大学の目標設定に当たり、国際的に卓越した教育研究と並んで、社会・経済に関する新たなシステムの変革に貢献する事業プログラムの推進が期待されている。そこで本事業では、日本各地で実践的な研究・教育活動を行っている本学の人文・社会科学系の教職員、学生と連携し、地域の抱える様々な課題の解決する本学の取り組みを強化・推進する。

 社会科学研究所(以下、社研)では、1946年設立以来、「日本の現実だけでなく諸外国の実情をも正確に把握し比較すること」、「社会科学分野における学問的総合研究を行うこと」、「理論と実際との結合を考え、学問研究を国民生活の基底まで浸透させること」を目標に研究活動を続けている。

 このうち国民生活の向上につながる学問として、社研では「全所的プロジェクト」と称する総合研究を50年以上続けてきた。近年は「希望の社会科学(希望学)」として、岩手県釜石市ならびに福井県などと連携し、希望という観点から、地域における目標共有や取組みの推進、ならびにその実現に向けた人材交流などについて提案活動を行ってきた。東日本大震災後の釜石市が作成したオープンシティ戦略では、その基本構想の中核概念である「希望の連鎖」「つながり人口」、さらにそれを踏まえた具体的な事業内容の構築に、希望学の知見が活用されている。

 現在、社研では全所的プロジェクトとして「危機対応の社会科学(危機対応学)」(2016~19年度)に取り組んでいる。危機対応学は、社会の様々な危機対応学の発生メカニズムと対応策を社会科学の観点から所を挙げて究明することを目的としている。その主要な活動の一つとして、東京大学アクションプランの学術成果の社会還元ならびに産学官民協働拠点を踏まえ、釜石市と協働し「危機対応研究センター」を設置している。そこでは、震災・津波の記憶継承と将来の危機対応の方策に関する研究・提言活動を推進している。

 上記のように社研では地域社会と連携し、課題解決に向けた実践的な研究に一定の実績を有している。ただ同時に、日本国内における課題は言うまでもなく数多存在し、一研究所のみの活動では、本学の社会貢献として限界があるのも事実である。

 一方で、本学の部局では、地域社会に飛び出し、市民や住民と現場で議論を何度も積み重ねながら、課題の発見と解決に向けて共に行動することを主な研究活動としている教員は、実のところ、少なくない。そこには、自然科学系の教員のみならず、人文・社会科学系の教員も多数含まれ、地域における法律・政治問題、文化・社会問題、教育問題、経済問題などに貢献し、同時にその成果を学術研究として発信している。そのうち学部所属の教員は、ゼミ教育活動等の一環として、地域に赴いた学生に対し、地に足の着いた市民・住民視線の課題解決力の育成という、本学が社会から期待される重要な人材育成を実践している。

 このように、本学では既に一定数の人文・社会科学系の教員・学生が、日本国内の様々な地域で地域課題解決型の実践的な研究・教育活動に取り組んでいる。ところが反面、それらの活動を推進する上で、共通するいくつかの課題に多くが直面している。

 第一に、それぞれの取り組みが、地域固有の課題であることが多いために、その研究教育を行うための広範な研究資金の獲得が困難な事情がある。研究には、科学研究費補助金などの助成を得ることも想定されるが、そこでは特定地域を越えた普遍的課題の解決に向けた研究がややもすると優先され、個別地域の課題解決に向けた研究への助成は得にくいのが実情である。さらには地域の課題解決には、何度も現地を訪れる必要があるなど、一定の調査研究期間の確保が求められるため、短期的な資金計画では、真に有効な手立てを立案することが困難な場合も少なくない。

 さらに第二の課題として、地域における実践的な教育に参加しようとする学生に対して、多大な自己負担を求めざるを得ない現実がある。課題解決に取り組み地域が東京から遠く離れている場合には、国内といえども少なからず旅費が発生する。さらに地域に訪れる頻度が多かったり、滞在する期間が長ければ長いほど、旅費や宿泊費が少なからず発生することになる。それらの費用は、参加する学生が自ら負担せざるを得ず、長時間のアルバイトなどを通じて資金を捻出している場合も多い。教員の指導に基づく学生による地域活動の実践は、本学における地域課題解決に向けた活動に一定の貢献を果たしているにもかかわらず、そのための大学からの支援は皆無に等しいのが実際である。

 併せて第三の課題として、本来ならば本学が負担して然るべき活動費用の負担を、地元地域に事実上強いている面も見逃せない。実践活動を行う教員、学生の資金が十分でない場合、現地での移動、滞在、場所の確保など、その多くを地域関係者の厚意に拠って実施可能となっていることも少なくない。それに対して教員・学生は、研究教育の成果還元によって報いているところであるが、それでも円滑な社会連携と地域からの信頼獲得のためには、必要な費用については、本学として手当てする最低限の体制は整備していく必要がある。

 これらの課題は、自然科学系の教員・学生にも直面している場合もあるが、研究教育の資金面の十分でない人文・社会科学系でより深刻なのが実情である。そこでこれらの課題に対し、本事業では、社研の危機対応研究センターを拠点に、地域課題解決に取り組む人文・社会科学系の研究教育を支援する取り組みを積極的に推進する。

 具体的には、地域における様々な危機に対して、地域と連携しながら克服に向けた対応活動を行っている人文・社会科学系の教員、学生から広く募集し、学術的な評価・審査を行った上で、資金面・情報面などで一定の助成を行い、その成果の充実を図る。あわせて取り組みによる具体的な成果の紹介と今後の地域の危機対応に関する諸方策の提案を、本学ならびに社研における社会貢献事業として広く社会発信していく。

 その上で、2017~2018年度においては、社研の危機対応研究センターを拠点に事業を行っていくが、2019年度以降は、学内部局と連携し、部局連携による独立組織「地域課題解決連携機構(仮称)」によって、さらに強化・推進していくことを想定している。

 新組織においては、本学における地域課題解決の社会貢献活動を評価する各種機関・団体から寄付を募ることなど通じ、独自の基金を設けるなど、事業基盤の強化にも努めていく。それによって、人材育成、研究力強化、社会連携、財務強化の好循環を実現し、指定国立大学として東京大学が期待される先導的役割を実践することを目指している。

* 本事業は、東京大学が、地球と人類社会の未来に貢献する協創活動を活性化させるため、その方向性が合致するSDGs(Sustainable Development Goals)を最大限に活用するという方針と密接に関連して実施されるものである。
 東京大学のSDGsの活用については http://www.u-tokyo.ac.jp/adm/fsi/ja/sdgs.html を参照。