研究内容紹介

研究の目的

utp3.png

 現代の日本社会において、人びとは日常的にどのような法律問題や紛争を経験し、そしてその問題や紛争にどのように対応しているのでしょうか。
 人びとの紛争経験や紛争対応行動に関する大規模な調査は、今からちょうど10年前となる2005年~2006年にも実施され(科学研究費補助金特定領域研究「法化社会における紛争処理と民事司法」〔2003年度~2008年度、領域代表者:村山眞維〕)、多くの重要な知見が獲得されました(村山眞維他編『現代日本の紛争処理と民事司法(全3巻)』東京大学出版会、2010年、ほか)。
 しかしそれから10年が経ち、現在あらためて、人びとの紛争経験や紛争対応行動に関する大規模な調査研究が必要となっていると私たちは考えます。それは、この10年の間に、とりわけ次の2点において日本の社会および司法制度に重要な変化が生じ、その影響を正確に測定・評価することが急務となっているからです。
 この間の重要な変化の一つは、日本が超高齢社会に突入したことです。全人口に占める高齢者人口は、2007年に、超高齢社会の指標とされる21%を超え、2015年には26.8%に達しました。高齢化の亢進は、介護、医療、住宅、財産管理、成年後見、消費者取引等さまざまな分野で新たなタイプの問題や紛争を発生させており、それは今後ますます増加していくことが予想されます。しかし、高齢者をめぐる問題や紛争の量的増加および質的変化の実態についてはいまだ未解明の点が多いのが実状です。
 もう一つは、司法制度改革の進展です。法曹人口の大幅な増加や総合法律支援制度の創設等の司法制度改革の進展が、人びとの法律問題や紛争の経験、それへの対応行動にもたらす影響を実証的に測定・評価することは、司法制度改革の政策効果の検証として重要であるとともに、上記の、日本社会の超高齢化が人びとの問題・紛争経験や対応行動にもたらす影響を解明するためにも不可欠の視点です。
 本研究は、これらの日本の社会と司法制度の近年の変化に焦点をあわせて、現代日本社会における人びとの紛争経験とそれへの対応行動を総合的・実証的に解明し、その知見に基づき司法政策上の提言を行うことを目的としています。
 本研究を通じて、超高齢社会における人びとも紛争経験や紛争対応行動に関する新たな学術的知見の獲得が期待されます。また、その知見に基づき、高齢者の人間としての尊厳を損なうことなく、種々の問題・紛争に適切に対応し、その合理的な解決を実現するためには、どのような法的支援や紛争処理の制度・技法が必要なのかについて貴重な政策的示唆も得られるものと思います。さらに、高齢化の亢進という社会環境の変化が人びとの紛争経験や紛争対応行動にもたらす変化の解明とそれへの適切な対応は、今後諸外国の多くが直面する課題であり、本研究は国際的にも先進的な貢献ができると期待されます。

研究の内容

本研究においては、以下の3つの調査を行います。
  1. 全国の市民を対象に実施する紛争経験および相談機関利用経験のサーベイ調査(「紛争経験調査」)
  2. 全国の地方裁判所の既済事件のなかから無作為抽出した事件の当事者および代理人弁護士を対象に実施する訴訟利用経験のサーベイ調査(「訴訟利用調査」)
  3. 上記2つのサーベイ調査の対象者のうちで、追加的個別面接調査の応諾者を対象に実施するインデプス・インタビュー調査(「面接調査」)

本研究では、上記のサーベイ調査および面接調査の知見を有機的に統合し、それに基づき、紛争経験や紛争対応行動に関する新たな理論の構築と司法政策上の提言を行うことをめざします。

soshikizu.jpg