(続)ネットで火がついた中国の反日運動
4月9日、中国の反日運動団体が呼びかけた北京でのデモには1万人が集まったと言われ、日本大使館に投物が行われる事態に至った。翌日も全国の大都市でデモがあった。事態は私が予想したよりはるかに大きな規模になった。これほど多くの人々が同じ目標のもとにデモに繰り出すのは6・4天安門事件に至る民主化運動以来ではないだろうか。しかも、デモ隊が大使館や日本料理屋に投石したり、日系企業の看板を壊したり、過激な行動に出たこと、デモ参加者のそうした乱暴狼藉を警官隊が一定程度容認していたこと、中国外務省のスポークスマンも責任は日本側にあると発言したこと、また市民へのインタビューでも暴力行為についてはともかくデモの趣旨には多くが賛同していたこともショックだった。
4月3日の時点ではデモの矛先は「日本の国連常任理事国入り」ということで、なぜ参加者らがこんなに盛り上がるのか、なぜ「日貨排斥」なのか、私には今ひとつ理解できなかったが、その後「つくる会」の歴史教科書が検定を通るということが起きた。「つくる会」教科書の検定合格、そしてそれ以外の多くの教科書から従軍慰安婦に関する記述が消えたことなど、日本による「歴史の歪曲」が、9日以降、デモが大きく広がった原因である。中国外務省の発言も、問題を歴史教科書問題に絞ろうとする意図が感じられる。
そして今日(4月11日)の時点で中国のインターネットを見ると、今回の反日問題を引き起こした教科書問題に関する報道や、ネット上での発言もきわめて少なくなっており、事態の収拾へ向けて政府が言論に対する規制を強めている(もしくは中国のメディアが反日報道のネタが尽きて飽きた?)ことが窺える。9~10日の騒動で、大衆の日本に対する怒りを日本側に見せつけることができたから、この辺で幕引きにしようと中国当局が考えているのかもしれない。
教科書問題について言えば、中国外務省アジア司司長が日本大使館の公使に対して語ったという、「教科書は民間が書いたものだが、検定したのは政府であり、政府の立場を体現している」という発言に対して、私は「それは違う」と反論できる自信はない。「つくる会」の歴史教科書の内容は、中国のマスコミがかなり詳しく紹介しており、これを見た中国の人々が憤激し、それが今回のデモに対する支持につながっている。今回の事態を引き起こした直接の原因は「つくる会」とその教科書を合格させた文部科学省にある。
検定で通してしまったものを中国、韓国の反発があるからと言っていまさら撤回できるものではないだろう。それよりも、教科書検定という制度を即座に廃止し、特定の教科書の主張が政府や国民全体の主張だと誤解される余地をなくすことである。言論の自由が保障された社会のもとで、他国民を傷つけるような言論自体を取り締まることはできない。今回の問題は、教科書の検定が絡むことで、そうした言論と日本という国全体が結びつけられていることである。私自身を含め、多くの日本国民が「つくる会」と心中させられるのはかなわないと思っているだろう。
検定をなくすと、誤りの多い教科書が出回って教育が混乱すると当局は反論するだろう。だが、教科書が氾濫するようになれば、採択する側でも判断の拠り所が必要となるので、企業に対するISOのごとく、教科書の審査を行う民間の会社が出てきて、それが教科書をチェックし評定するという仕組みができあがるのではないか。文部科学省がそうした第三者機関による認証という仕組みができるよう道筋をつけた上で、検定から手を引けば、20年も前から日本と中国・韓国との間にトゲのように刺さってきた教科書問題もなくなる。