新傑股分有限公司(Sony Video Taiwan Co.Ltd

1996年9月7日

 

 1984年にスタートした。ビデオを中心に生産している。輸出中心だった時期もあるが,コスト的に引き合わなくなってきたので,島内ビジネスを中心にするようにしている。今輸出から内需へのシフト過程にあり,移行期の苦しみを味わっているところ。台湾はパソコンがつよいので,PC関連も今後取り込んでいきたい。

 製造機械は,実装機(部品挿入機)は松下,三洋のものを使っている。リフロー炉(ハンダ付けの炉?),基盤は台湾製を使っている。ドラム(シリンダーヘッド)はシンガポールのソニーの工場で作り,マレーシアでメカデッキ(シャシー)にする。タナシン(マレーシアのイポーに工場がある)からもメカデッキを買っている。

 

OHPによる紹介

 立地は桃園県中歴工業区にあり,中正空港から20分,新竹からも近い。またソニーの半導体を作っているPEC半導体社(ソニーから出資はない)からも近い。

  工場のレイアウト

     4F 自装         倉庫

     3F ISC製造

     2F HAV製造      連合事務所

     1F 空きスペース

 

1984年に創立され,当初は資本金1億元でソニー51%,新力49%。

 製品は最初はベータVTR→91年10月に生産中止。90年 VHSを生産開始。

92年MDP生産開始,95年ISC生産開始。

 ソニーの所有シェアは増資の度に増え,91年7月にはソニー100%となった。同年10月2.315億元に増資。1994ISO9002取得。96年9月ISO14001取得予定。台湾では最初のグループとなる。9611月にISO9001をとる予定。

 1990年5月,カラオケ機種を発売しているが,これはこちらで開発した。

 現社長は4代目。ずっと日本人社長。

 売上高:1984年当初はベータ,台湾島内のみ。

    199434.63億元,9540.07億元(半分以上輸出),

    1996年計画22.48億元(VHSの輸出が激減したことによる)

 輸出への貢献により95年3月国際貿易局長賞,96年4月経済部長賞を獲得。

 台湾の企業ランキングで207位,電子で46位。

 当社のIPO(international pruchasing office)事業。金型,情報PCB,マイク,ケーブル,その他の台湾での調達を手伝う。ホテルの予約から空港の出迎え,メーカーの認定までやっている。変なものを紹介してしまってからでは遅いので,企業の素質をまず調べる。IPOビジネスの金額の半分は金型。

 年労働時間は2082時間,250日稼働。福利:食堂,送迎バス,寮83人分,診療室,社員旅行,レクレーション。福利会でやっている。

 当社のヒット商品はVHSカラオケ付きである。1996年6月までで184350台出荷し,うち143800台は輸出。輸出先は主として東南アジア(シンガポール,マレーシア,タイ,中近東),さらに中近東からロシアへ密輸,香港から大陸へ輸出がある。

 1996年に当社が設計したモデルは30種ぐらい。うち台湾で製造するのは一部のみで,ソニーのタイ,ベトナム,フィリピン,日本の工場で生産されているものが多い。

 台湾のVTR市場は199212月には57.8万台(12カ月移動平均)だったが,現在は28万台ぐらいに縮小してしまった。

 各社のシェアはソニー22.1%,Panasonic19.4%, SAMPO9.4%, TOSHIBA9.2%, TATUNG6.7%,SANYO5.3%, KOLIN4.5%. ソニー製品はすべて当社(新傑)で作られているもの。大同以下の三社はすべて生産を止めており,他社からのOEM供給を受けている。KOLINのVTRは新傑がOEMで生産している。

 VTRへの需要の落ち込みの理由は,CATVの普及によるのではないかといわれている。つまり,台湾で売れていた再生専用機がCATVの普及により,余り必要性が感じられなくなったという。また景気も悪い。録画できるVTRは高いのでまだ需要が少ないというが,私(社長)はこれから回復すると思う。次世代の商品Video CDが普及し始めるまでにはまだかかるので,それまで回復するはずだ。

 新傑の人材育成:

 5月にベースアップ考課,6月に昇級試験,7月にボーナス年央査定,1月にボーナス年末査定。職位ランクはS1,S2,S3,S4,組長代理,組長,課長代理,課長,次長代理,次長,部長代理,部長まで12ランク。昇進は,推薦,職位評価,試験,面接,決定の5段階を踏む。

 トレーニング:

新人教育(会社全体について),職前教育(個々の仕事について),OJT,社外の訓練コースへの派遣,日本の事業所への派遣(部課組長),社内の日本語・中国語講座,MBS(ソニー圏教育講座),プロジェクト活動への参画による能力レベルアップ,Job Rotation。(管理職のローテーションをやる)

 社外の訓練コースの派遣は例えば安全衛生の特別資格をとらせるために総計16時間の訓練コースに参加させたり,リフターについても認定が必要なので訓練コースに参加させたり,規格,設計マネジャーコースに参加させたり,だいたい時間は8時間から3日間ぐらい。

 

 製造専門技能資格認定:

  基本作業技能(手によるマウンティング,ハンダ付け,ネジ取り付け,ハネス挿入)

  特別作業技能(Table path,調整,画と音の調整)

  長SST作業技能

  Multi Job作業技能

 この制度は技能のよい人に対するインセンティヴとして導入した。技能資格認定を通れば基本給が上がる。ネジ取り付け1級だと200元,2級だと100元というように額は小さい。また昇進の時にも評価の一つに加えられる。台湾ではアメリカと同じようにオペレーターは賃金いくらというように決まっていて,熟練,勤続年数や技能が給与に反映されない。そこでなんとか技能を報酬に反映させたいと思った。また従業員に技能に関心をもってもらいたかった。資格が認定されても3カ月後に見直しを行い,技能が落ちていたら賃金を元に戻すことに原則上はなっているが実際に適用されたケースはない。

 新傑におけるある種の作業は,従業員から難しいと不平が出ていて,その部署に配属した労働者がせっかく教育しても他の会社に移ってしまうという問題があった。とりわけコンピュータ業界の景気がよく給与が高いため,そちらに移ってしまう。会社を楽しくして移りたくなくなるようにするのも手であるが。

 そこで難しい仕事に対する報酬ということで上記の制度を作った。金額的には小さいが,報酬を与えるということは会社側がその技能を評価しているということを従業員に知らせる意味がある。報酬を与えなければ,会社がいくらそれは重要なんだといっても,評価しているという気持ちが伝わらない。

 日本の工場では通信教育をやった人を表彰するために壁に張り出すといったことはやるが,技能習得を給与に反映させることはなく,昇進などを通じて長期的評価に反映させる。私(社長)もこちらに来て3年ぐらいは技能に対する金銭的報酬などやるべきではないと思っていた。しかし,Tape バスの部門が難しくて労働者がどんどんやめてしまうという問題が発生し,そこで加給をやってみたら定着するようになった。問題は金ではなく,評価していることをわからせること。今年から加給する範囲を広げてみた。そうすると,あちらは評価するのにこちらは評価しないのはなぜだという不平が当然でてくるが,それは会社の判断ということで納得してもらう。

 日本では技能に対してせいぜい表彰やバッジをつけるといったことをするだけだ。

 この制度を導入したのは総経理のアイディア。台湾人の董事や部門長には相談したがみな反対はしなかった。一般論としては賞や金がないと台湾の人は一生懸命にやらないとはいわれる。ただ,加給するにしてもその額は小さいということで日本的なやり方との妥協を図った。

 

 新傑の社会貢献:

 学校や社会からの見学を受け入れている。また元智工学院の学生に奨学金を提供している。これは人材を確保する目的もある。

 

 新力(販売会社)の販売構成:1996年総売上げ63.4億元

 CTV 42.7%  VTR10.0%, 8mm14.9%, MDP(レーザーディスク)3.2%,GA5.5%, HiFi9,1%, ME4.3%.

新力は台北,北部,台中,高雄の4営業部と1特販部を持っている。台北のもとには253の小売店,北部は239,台中は241,高雄は247ある。各営業部のテリトリーは決まっている。特販部からは泰一電気などの量販店に卸されている。450の小売店がある。台湾でも専属店のウェイトは下がり,量販店による販売の割合が40%とも言われるがよくわからない。販売は新力に任されている。

 

工場見学・生産革新:

 台湾はVTRに対して27.5%の関税,MDPに対しても同じ。TV,オーディオ製品に対しても15%の関税をかけているので,島内市場は安泰だが,いずれは関税は下がるだろう。そうなると東南アジアで作って輸入した方が安くなる。ただ,最近の考え方は「必要な時に必要なところで作る」。生産コストが安いからといっても,作りすぎればかえって高くついてしまう。マーケットのあるところで必要なだけ作ったほうがかえってよい。

 そうした考え方に沿って新傑では目下生産革新を進めている。ライン方式ではなく,1人が1セットを作るone man productionのやり方を目指している。このやり方は生産量のフレキシビリティがあるので,無駄なものを作らないでトータルコストを下げることができる。VTRが不景気で仕事が減ったので,そのチャンスを生かして生産革新に取り組んでいる。

 生産革新は「飛龍プロジェクト」と呼んでいて,従業員からの提案も募り,よい提案には報奨金1000元をあげている。one man productionの方式はソニー圏ではすでに取り入れ始めている。新傑では「飛龍」を6段階で進めていて,すでに第5段階まで終わっている。飛龍の一環として基盤からアセンブリまで同期化して,仕掛品をゼロにすることもやっている。以前は挿入とアセンブリが階が違って,ある程度仕掛品がまとまってから下に降ろしていたが,今は同じ階にして連続させている。

 飛龍の成果は目覚ましく,1人あたり生産台数は24台から32台に増え(目標は35台),不良率は1.4%から0.4%に下がり,仕掛かり数も55台から12台に減った。(目標は10台)

 今まで不良率が上がったのは,切り替え(ある製品Aの組立から別の製品Bに切り替えること)の時だった。今度は小グループを作って一人の人が同じものを作り続けるようにした。ミスをしたのが誰かがすぐにわかるので各人に責任感が出てくる。以前のようにラインで1人の人が20秒のサイクルで同じ作業を繰り返していたのとは違って,1人の人が20分ぐらいの工程をやるので,間違いに気付いたらやり直しができる。

 

 

製品開発:

 技術部には設計20人,製造技術23人の陣容。専門学校卒以上の人が配属されている。専門学校出の人の方が現場主義で開発するので,大学院出の人より却って伸びる。マレーシア,ベトナム,フィリピンなどでキット生産するものもここで設計する。キット化法も設計する。

 

 基盤は台湾産のものを使っている。フィリピン労働者が30人以上。みな大専以上の学歴で,平均年齢は27歳ぐらい。

 

 Panasert(松下)の自動挿入機,チップ部品マウンティング機が使われていた。

 自動挿入機の操作工はある程度の技能が必要,本格的修理はメーカーにやってもらうが,初歩的メンテナンスは操作工がやらねばならない。

 生産規模が小さいので切り替えが多い。どうやって切り替えたら効率的かもコンピュータを使って計画する。

 生産が減ったので3交代から2交代になった。

 

工場の4階は部品の挿入(自動)とハンダづけ(自動)のラインがあった。

3階は業務用VTR(ISC)

フロアの片側が倉庫になっている。倉庫は狭いが,ここに入るだけに在庫を絞ることにしている。ここではone man productionが展開されている。

 一人が80200点の部品を挿入する。多いように思うかも知れないが,ストーリーがあることは人間は覚えられる。かつてラインだったときも1台につき挿入する部品は少ないが切り替えがあるので実際には覚えなくてはならないことは多かった。今は頻繁な切り替えがなく,一人の人が同じものを毎日挿入する。組立作業台は木でできていて,部品を入れる箱がおいてある。作業台には車がついていて,部品がなくなったら自分で取りに行って補充する。ラインの時は部品補充員がいた。また切り替えは作業台ごと取り替えればすぐにできる。

 業務用VTRのメカデッキの組立工程は,作業台が1周6メートル程度の楕円形になっていて,その周りを労働者が作業物を押しながら回っていた。1つの作業台に3人ついているが,それぞれに作っているものは異なる。

 生産ライン方式だと一人労働者が欠席するとラインが動かないが,この方式だと人がいなくなっても他の労働者の作業には影響しない。

 ただ問題は設備を常にフル稼働はできないので,設備費負担が重くなることである。そこで設備はなるべく簡単にしている。ここでは作業台を木を使って社内で作っている。

 

 

 

2階?のレイアウト

   昔                今

                    ワークセル

    ライン

    ライン              ライン

 

 


今もラインを一部残してあるがほとんど使わない。各ワークセルではワンマンか,ブロックワンマン方式で生産している。すなわち1人で12工程をこなすケースと,4工程をこなす人が3人いるケースがある。

 

one man productionの例:

                         線吹き出し 3: 車のついた
作業台
人    人

    

                           作業台

 


    人                       人

 

    検査器具

  部品  人

   人

      人

 

       

品質検査はラインの最後でインラインQCを行っている。

段ボール箱はメーカーがラインの必要箇所まで運んでくる。そこにはJIT Postが置いてあって必要量が書いてある。

 ソニーのマレーシア工場でも生産革新をやっている。当社では生産が減少したチャンスを狙い,1995年9月から準備して今年からスタートした。

 飛龍以外に「躍獅プロジェクト」も進めている。これは部品のリードタイム,在庫を減らすため。発注してから部品が到着するまでの時間を短縮する。シンガポールからの運送を改善する。

 

 日本人8人が駐在している。社長,品管部長,設計,製造,製造部門長,ISC製造部経理,管理部経理,技術部経理など。

 日本とのやりとりが多い部門の場合,共通の文脈がないと話が通じにくくて困る。日本でも木更津工場では同じような部門に本社派遣の人がいる。技術,品管,管理部(親会社との金のやりとりを握っている)などがそうした重要部門である。

 ただ8人来る人が必ずしも適正があるわけではないこともある。実務ができる人は往々にしてなんでも自分でやってしまって現地スタッフを教育できない。逆に教育に長けた人が実務ができないこともある。

 

部品調達:VTRについて

 Non local 日本送り 12%

 PLP 1    日本生産(日本で作られているが台湾で購入するもの) 23%

 PLP2     日本系ベンダーから買うが非日本生産  53%

 PLP3     非日本系ベンダーから買う非日本生産  12%

金額ベースによる比率。

 

台湾人の新傑の幹部は内部で昇進してきた人がほとんど。部長クラスは内部昇進のみ。組長クラスは途中入社の人がいてもいいと思うが実際には少なくてかえって心配だ。途中入社の人は他社のカルチャーを持ってくるので企業にとって刺激となる。新傑では人が出て行くばかりで入ってこない。

 管理職について学歴上の制限はないが,実際には大専卒以上のひとしか管理職になっていない。新入社員においては学歴による給与差が若干あるが5年ぐらいすると学歴格差がなくなるような給与体系に今年した。課長以上になったら学歴格差はなくすようにしている。班長や組長レベルには高卒,中卒の人がいて給与格差があったので入社5年で格差がなくなるような体系にことし変えた。また他の条件が同じとき女性の方がやや安い。

 給与体系は歴代の総経理が現地事情を考慮しながら決めた。給与体系は合弁企業だった時代からソニー側が決めた。従ってソニー本社の給与システム,格付け制度を導入している。今のところ女性は組長クラスまでしかいない。女性はバランスを欠くことがある。

 

開発:

 新傑をエンジニアリング・センターとしたのは5年前である。それ以前からカラオケ付きVTRなどの開発は行ってきた。新傑は本社事業部の設計部門の1部という位置づけである。係長ないし課長補佐クラスの日本人が新傑の開発部門のリーダーとなっている。あとは台湾人。オリジナルな開発とはいえない。

 新傑でやっているのは各要素を前提に,それをどう組み合わせるかを設計すること,さらにそれをモディファイすること。またそうして設計したものをキット展開(kitにする仕事)もやっている。部品の承認もここでやる。試作は新傑から日本に人を送って一緒に行うこともある。将来的には台湾で試作もしたい。