上海フォルクスワーゲンの工場が、トヨタ九州の工場の4倍も贅沢!?(新著『メイド・イン・シャンハイ』68ページの記述に関するコメント)

2000年に完成した上海フォルクスワーゲンの「汽車3廠」(乗用車「パサート」を生産)の総投資額は約700億円、それに対して2005年に完成したトヨタ自動車九州の第2工場(乗用車「レクサス」を生産)の総投資額は300億円にすぎない。
上海フォルクスワーゲンの工場の年産能力は10万台、一方、トヨタ九州の第2工場の生産能力は年20万台。なので、1台あたりの投資額は上海フォルクスワーゲンが4倍にもなる。
にわかには信じられない数字である。
私自身もヒアリングメモを元に上記のように書いたものの、率直に言って、本当にこれが正しいのか半信半疑のまま原稿を出してしまった。

気になったので、改めて調べてみた。
まず上海フォルクスワーゲンの工場の投資額が51億元、というのは私が見学の時に案内嬢から聞いた数字だが、2005年12月に再訪したときに別の人(余り友好的ではない人)に聞いてみたら「数十億元」というお答えで、その他資料やネットを当たってみたが、他ではこの数字は出ていない。ただ、ネット上に中国の新聞記者が上海フォルクスワーゲンの汽車1廠を訪問した文章が出ており、彼によれば汽車1廠の投資額は40億元で、汽車3廠と「どっこいどっこい」ということなので、私がとんでもない聞き間違いをしたということではなさそうだ。少なくとも300億円より大幅に多いことは間違いない。
一方、トヨタ九州第2工場の投資額についてはいろいろなメディアに報道されており、間違いない。

では生産能力は正しいのだろうか。上海フォルクスワーゲンのウェブサイトを見ると、生産能力は10万台ではなく15万台と書かれている。但し、3シフトで稼働した場合の話である。実際にはパサートは10万台も売れていないので、2シフトで10万台というのも間違いではないだろう。

また、乗用車工場といっても、いずれも既存の工場群のなかに増設しているので果たして同じものを比べているのか、という疑問も生じた。
トヨタ九州の第2工場の方は、ボディー、塗装、組立を含む。一方、上海フォルクスワーゲンの工場は、デコイリング、プレス、ボディー、塗装、組立を含む。つまり、後者はプレスとデコイリングを含んでおり、厳密に同じものを比べているわけではないことになる。プレスは見るからに投資額が大きそうである。
しかし、仮にプレスを抜いても、上海フォルクスワーゲンの方がトヨタ九州より工場が贅沢という結論には変わりはないものと思われる。
それにしてもどこが贅沢なのかというのはなお謎である。ボディー溶接の自動化率など、上海フォルクスワーゲンは25%にすぎないのである。(トヨタ九州第2工場は行ったことがないが、今の日本では100%近いのが通例である。)