鮫島敬治・日本経済研究センター編『中国の世紀 日本の戦略』日本経済新聞社 2002年6月。
評者:丸川知雄(東京大学社会科学研究所助教授)
最近、中国市場ではアメリカ企業の積極的進出と日本企業の退潮が目立つ。アメリカ企業は中国に最新技術を投入し、投資規模も大きく、現地人の登用も進んでいるのに対して、日本企業の投資は概して小規模で、低賃金労働力を使うことが目的で、経営陣も日本からの派遣者が占めている。日本人経営者は概して高齢で日本的経営方式を墨守する傾向があるが、個人の職責と賞罰をはっきりとさせたアメリカ的経営方式の方が今の中国人には受けがいい。金融の分野でも、アメリカの金融業界が不良債権処理や制度構築の面で積極的に中国に入り込んでいるのに対して、日本の銀行は中国への融資を大幅に減らしている。農産物においてもアメリカは中国の穀物市場の開放を戦略的に追求しているのに対して、日本は主に日本企業の開発輸入によってなされている中国野菜の輸入に対してセーフガードを発動するという受け身かつ間抜けな役回りを演じている。
アメリカは中国からの留学生の大量受け入れによって文化や制度面での影響力を拡大しており、アメリカ留学組が政界や経済界で台頭している。中国はかつて日本を経済改革のモデルに擬した時期もあったが、日本経済の成長力が弱まるにつれ、日本への関心は薄らいでいる。むしろ日本の制度改革の遅れが目立ってきており、とりわけ産学連携においては既に中国の方が日本よりも何歩も先へ行ってしまった。
本書は中国の各分野におけるアメリカと日本の影響力を比較しているが、いずれにおいてもアメリカ化の進展と日本の後退が顕著である。だが、成長する中国という市場をつかみ損ねたとき、日本の活路はどこに見いだせばよいのだろうか。日本の経済界も政府もリスクを厭わず中国市場にもっと本腰を入れて取り組むべきである。
同時に中国の改革に学ぶ姿勢も持ちたい。たぶん、「金融特区」構想は中国の経済特区からヒントを得たものなのだろうが、いつも日本の改革論議は先々のことまで検討しすぎて時間がかかりすぎるきらいがある。中国のように実験だと割り切ってとりあえず部分的にでも改革を始め、結果がよければ改革を広めるし、悪ければやめるというぐらいの身軽さがないと改革は前に進まない。本書は在日中国人研究者を含む中国ウォッチャーから日本社会に対する熱いメッセージである。是非多くの日本人に読んでいただきたいものである。