中国の産業競争力と日中経済関係の展望

丸川知雄(東京大学社会科学研究所)

 

1.国際競争力の分析方法

 

①潜在力アプローチ・・・・  IMD

②輸出パフォーマンスによるアプローチ・・・・・・ 関志雄 (図1)

 

 ①潜在力と競争力はダイレクトには結びつかない。また、比較優位をどう考えるのか。つまりあらゆる項目で絶対劣位にある国でも国際貿易で占めるべき位置はある。

 ②は輸出市場(米国市場)でのパフォーマンスから中国の競争力を見るもの。中国の輸出の大半が外資系企業によって行われているという現状からみると、日中間の棲み分けは、多国籍企業自体のポリシーによって影響される可能性がある。

 多くの産業で中国の競争力は「内弁慶」型。アメリカ市場が世界各国の競争力がフルに発揮される場とはいえず、今後世界最大の市場になる可能性のある中国市場でのパフォーマンスも競争力を判断するうえでの重要な根拠となる。

 ここでは中国の個別市場での産業競争力について具体的に検討したい。

 

2.家電産業・IT産業

 

(1)カラーテレビ  表1 図2

 長虹、康佳、TCLら国内企業が上位を占める。

 松下電器は山東省に合弁テレビ工場を設立後(1996)、シェアが急落

 ただ、販売台数を推定してみると、ソニー、松下、東芝の稼働率はそれほど低くないと思われる。福建日立と武漢JVCの稼働率はかなり低いと見られ、実際両社は2002年に撤退した。

 また、価格をみると(表2)、同じサイズ、ブラウン管規格でもだいぶ高い値段を付けており、ハイエンド・少量の市場を確保しているとも考えられる。激しい価格競争のなかで、康佳、海信、創維が赤字、長虹もほぼゼロ利潤のなか、日系企業は価格競争に巻き込まれずに済んでいるようにみえる。また、東芝、ソニー、三星、松下の4社でプロジェクションテレビ市場の70%を占めているといわれる。

 

(2)洗濯機  表3

 上位はやはり国内企業が占め、5位以下に松下、シーメンス、ワールプールなどが登場。松下の稼働率はそれほど低くないとみられる。

 

(3)冷蔵庫  表4

 外資系企業でもシーメンス、エレクトロラックスは比較的健闘。日系企業はかなり惨憺たる状況。中国では大型の冷蔵庫がより選好されるからだろうか?

 

(4)エアコン  表5

 やはり海爾、美的など国内企業の天下だが、日系企業も比較的上位に食い込んでいる。

 

(5)それぞれのキー・コンポーネント

 上記各製品のキー・コンポーネントにおいては、日系企業のシェアは比較的大きい。

 テレビでは、ブラウン管8大メーカー中2社(北京松下、賽格日立)が日系。他の企業(彩虹、上海永新、広東福地)も日本企業から技術導入。日系のシェアは25%前後、日系企業が提供した技術となると7割以上。(表6)

 PDPは世界でも松下、LG、三星、パイオニア、NEC、富士通の6社しか生産できない。

 テレビ用ICも主に日本企業が提供。

 中国国内でのエアコンコンプレッサ生産の90%は日系企業によるもので、東芝、松下、三菱、ダイキン、三洋、日立が生産している。国内メーカーは格力、慶安、広州勝風がある。他に需要の1020%程度のコンプレッサは輸入されている。

 VCDDVDは中国市場では中国メーカーの天下。だが、肝心な光ピックアップはソニー、三洋、松下、シャープ、フィリップス、三星が供給。

 

(6)パソコン  表7

 デスクトップではやはり国内ブランドのシェアが大きく、日系はトップ10に入っていない。もっとも、中国で最大のシェアを持つデスクトップPCは実は「ブランドなし」。学生はほとんど自分で組み立てるのだという。聯想なども差別化できているわけではなく、主にサービス(48時間内の訪問サービスなど)でシェアを得ている。

 ノートブックでは外国ブランドと国内ブランドとの間に製品の外観、重さ等においてまだはっきりとした優劣がある。東芝の他、ソニーもシェアを拡大中と見られる。ただ、外国ブランドはサービスにおいて中国ブランドに追いつけない。

 

(7)携帯電話  表8

  急成長を続ける中国の携帯電話市場においては、中国がGSM方式を採用したため、ノキア、シーメンス、エリクソン、アルカテルなど欧州勢が強い。早くから進出したモトローラも大きなシェアを持っている。日本は携帯電話方式が独特であることもあって、出遅れており、松下、三菱電機、NECなどが下位の方でもがいている。1999年頃、外国ブランドの天下であることに危機感を持った中国政府(信息産業部)は国産ブランドの保護政策に乗り出し、外国ブランドの新規進出規制、生産規模拡大規制を行う一方、国産メーカー19社に対して資金投入を行った。これにより国産ブランドが市場で徐々に拡大し、2001年末に20%2002年には30%を目指している。

 技術面での特徴は:日本製品はサイズは大きいが軽い。カラーディスプレイ、インターネットなど機能面では優れている。中国製品は小さいが重い。主に電池の技術が未発達であることによるであろう。機能も少ない。価格は機能が同じであれば外資系、国産特に変わらず、かえって国産の方が高い。

 

3.自動車産業 表9

 乗用車は外資系企業の天下。88%は外資系企業の製品。日系は技術提携も含めて26%。だが、今後日産、トヨタの本格的進出により拡大が見込める。

 これまで乗用車は政府の規制が強く、真の競争はなかった。特に排気量ごとに1社だけ認めるという方針により、早く進出した企業は保護を受けてきた。ようやくここ2年ほどで各クラスで複数の車種、企業が競争する状況になった。(表10)

 商用車では中国企業の天下。競争の中から真に競争力のある企業がようやく顔を出してきた。

 

4.中国企業の優位性の要因

 

(1)サービスにおける優位性

 電子産業における上位企業のサービスは日系企業はおろか、日本企業が国内で行っているサービスをしのぐ。外資系企業はWTO加盟以前のサービス進出規制もあってサービスネットワークを十分に展開できていない。

 

(2)生産コストにおける優位性

 

(3)購買戦略における優位性

 

5.中国企業の優位性と日本企業の優位性の関係

 

相補う提携の可能性

 聯想による、東芝ノートパソコンの代理販売

 本田技研による新大洲との提携