(解題)ここに示すのは1991年の時点で20代だった中国の青年に対日観を聞いたものである。いま(2005年4月)起きている反日運動が、江沢民政権の時の愛国主義教育、“反日”教育の産物だという解説があるが、そうではなくて昔から日中戦争のことは教育されてきたことがわかる。彼らが現在にそのままタイムスリップしてきたとしたら、たぶんデモにも参加しただろう。この討論をしたとき、一番新鮮だったのは「野球は個人主義」という発言だった。日本では野球部というのは一番集団精神が強いイメージだが、競技自体は確かに個人主義かも。
中国の若者に対日観を聞く
聞き手・整理:在北京海外派遣員 丸川知雄
問:太平洋戦争について中国の学校ではどう教えるのですか?
H:日米間の戦争については高校のとき文科系の生徒が履修する世界史でやりますが、抗日戦争(日中戦争 1937~45)については中学の中国史の時間にやります。それ以外にも、小・中学校の中国語の教科書などでも抗日戦争のことは繰り返し取り上げられます。
M:日本軍は数千万の人を殺すなど非常に悪いことをしたと教えられます。南京大虐殺は重点的な教育項目の一つで教科書にも詳しく書いてあります。
S:そうした教育を受けてきたので、私は中学生の頃は日本のことが嫌いでした。
H:蒋介石が日本に対する賠償請求権を放棄したのは非常に愚かだったと思います。もし、日本が賠償を行っていれば、支払いは現在まで続いていたかも知れないし、そうなれば日本の侵略責任を含め戦争のことが忘れられることなどなかったにちがいありません。
問:身近な人から戦争の体験談を聞いたことがありますか。
W:私の母は東北部で生まれ育ったので、日本軍を実際にみたことがあるそうです。日本軍は農村へくると乱暴を働くので日本軍が来ると農民はみな隠れたそうです。
問:日本のよいイメージと悪いイメージをあげてみて下さい。
W:日本経済の発展の速さ、日本の民族の団結の強さには印象づけられます。
Y:日本人が威張るのには感心できません。国の大小、経済レベルに関わりなく人は平等なのではないでしょうか。
S:日本の一部に軍国主義が現れてきているのではないかと思います。また、日本は他国に対し経済侵略を行っているのではないでしょうか。北京市内でみても日本製品が溢れており、中国の産業に打撃が加えられるのではないかと心配です。
M:そんな心配は無用だと思います。日本が外国に積極的に学ぼうとしてきた姿勢は我々も見習っていいのではないでしょうか。
W:日本人は仕事に一生懸命なのはいいけれど、生活の基本を忘れているのではないかと思います。日本人の観光ガイドをつとめた友人によると日本人は観光も慌ただしくてまるで仕事のようだったそうです。
問:中国のマスコミでは西側の国は治安が悪いとか、個人主義の社会だといったステロタイプが伝えられることが多いように思いますが、これらは日本に当てはまるでしょうか。
Y:日本は中国より治安はよいと思います。
H:日本人が野球が好きなのは、日本人の個人主義的傾向を示しているのではないでしょうか。野球では個人が大事ですから。
S:一人の日本人は一人の中国人より弱いと思いますが、会社になると日本の方が強い。この点からみると日本人は集団主義なのではないかと思います。(91年10月19日)
参加者:5人とも現在北京のM公司で日本での研修の準備のために、日本語を勉強している。H,M,Yは大学を卒業したばかり。
H:男 北京電子工学学院卒 23才。
M:男 北京計算機学院卒 23才。
Y:男 北京電子工学学院卒 22才。
W:男 北京鉄鋼学院卒 28才。
S:男 北京航空学院卒 28才。
(アジ研ニュース1991年12月号)