中国語上達法                           丸川知雄

 私は大学生の頃に中国語を第4外国語として1年間勉強し、卒業後は毎日中国語の文章を眺める生活に入り、1年半ぐらいで現代文の読解には自信が持てるようになった。だが、会話に自信が持てるようになったのは、北京で生活し始めて1年ぐらい経った頃で、中国語を勉強し始めてから足かけ6年ぐらい経っている。日本人にとって中国語の読解に比べて、会話の習得はかなり難しいと思う。その理由の一つは意味が表現されるスピードの違いにある。日本語だと「どうぞ召し上がってください」と12音節使う内容を、中国人は「!と1音節で済ませてしまう。そんな言語であるのに、テレビでニュースを読み上げるスピードは日常会話よりさらに速い。北京に住み始めた頃、一体どうしたらニュースを聞き取れるようになるのか、と絶望的な気持ちになった。

 だが、あきらめずに毎日ニュースを聞いていると意外に速く理解できるようになった。ニュースの内容が毎日同じだからだ。「国家主席胡錦涛は今日の午後、人民大会堂○○の間で、中国を訪問中の○○国総統○○と会見した。双方は友好的な雰囲気のなか相互協力の拡大について話し合った。」この○○の部分が毎日換わるだけであとは同じ内容が繰り返されていることに気づいたとき、スピードについていけるようになった。

 日本人にとって中国語会話が難しいもう一つの理由は音韻体系が日本語と大きく異なることである。日本語では「チー」としか表現しようのない音を、中国語では有気音・無気音・巻き舌音など何種類にも区別する。特に有気音・無気音をうまく区別できずにつまづいている中国語学習者が多い。最初に「無気音は濁音ではない」と習うが、日本人として育った口は清音、濁音、撥音しか発音できないため、結局有気音も無気音もうまく発音できなくなってしまうのだ。例えば、「怎么办zenmeban?」を意固地に「ツェンマパン」と発音しつづけてなかなか相手に通じない傷ましいケースをよく見かける。そういう人はこの際開き直って一度「ゼンマバン」と言ってみることをお薦めする。きっと通じるはずだ。その代わり有気音は、ツバを飛ばすぐらいの勢いで発音する。例えば「判断」は「パンドゥアン」でいいが、最初のパで思いっきり口を爆発させるのだ。話すスピードに慣れ、自分の言っていることも相手に通じるようになると、会話ががぜん楽しくなってくる。漢字でどう書くかわからなくても耳から言葉を覚えられるようになればシメたものだ。