研究活動
班研究会
生活保障班研究会(第5回)社会サービス供給におけるセクター間の横断化と流動化 ― 福島県北K町の保育政策を事例に
- 報告者: 萩原久美子 (生活経済政策研究所・主任研究員)
- 日時:2011年6月21日 17時15分-19時
- 場所: 東京大学社会科学研究所 ミーティングルームB(118号室)
- 対象:学生・院生・教職員
報告要旨
介護・育児等の社会サービスの分野において、国家、市場、家族、中間的地域集団/NPOによる協働関係の構築が目指され、これらのセクター間の横断化、流動化が、政策としても、また各セクターの自発的な動きとしても推進されている。では、こうしたセクター間の横断化、流動化は、今現在も女性職としてある「保育士」の労働にどのような影響を及ぼしているのだろうか。また、ナショナルなレベルで制度化されたケア供給体制が再編される過程で、ローカルなケア供給体制とケアのジェンダー間・ジェンダー内部の分業はどのような再編過程をたどっているのだろうか。
本報告の枠組み・概念は、フェミニスト福祉国家/レジーム研究による「社会的ケア」の分析 枠組みと、関係としての「労働」概念(total social organization of labour)(Glucksmann 2000,2005)に依拠する。分析対象は、繊維業を中心に発展してきた福島県北K町で2008−2009年にかけて行ったフィールドワークである。その中から本報告では、ナショナルに制度化されたケア供給体制の基軸となった公的保育制度に着眼し、同町の保育政策と担い手たる自治体公務員としての保育士の位置づけを軸に、ローカルなケア供給体制の変動過程を検討する。
ナショナルなケア供給体制とその再編のありように規定されつつも、ローカルな社会―経済諸関係のもとで、同町は各セクターの資源をどのように動員し、いかなるケア供給体制を編成しようとしてきたのか。その過程で浮かび上がる「公的」なるものの意味を、セクター間の横断化・流動化のアクターである同町の行政、機業経営者、保育士、利用者と地域社会の実践から探る。また、ローカルなケア供給体制が再編される過程で、ケアをめぐるジェンダー間・内部の分業はどのように変化したのか。その一端を保育士の有償ケア労働と利用者である女性織物工の無償/有償労働との連結や、公/私、フォーマル/インフォーマルな資源動員の内部連関の分析から迫ってみたい。