研究活動

班研究会

生活保障班研究会(第4回) ワーク・ライフ・バランスの欠如と結婚:国際比較の視点から

報告要旨

 社会が安定的に再生産されるうえでのグッド・ガバナンスというものを考えるとすれば、ワーク・ライフ・バランスや次世代育成は、ミクロから超国家レベルまでのアクターがかかわる興味深いガバナンス課題である。本報告では、女性の人的資本と結婚意識との関連を31カ国(N=14,827)の国際比較を通して検討する。

 多くの先進国で未婚・晩婚化が進み、その要因に諸説があるなかで、代表的な仮説の一つとして「女性の経済的自立」仮説がある。これは、女性の経済力の上昇は、結婚の魅力を減少させ、未婚・晩婚化につながるとするものである。既存の実証研究はミクロ要因の分析に焦点があり、しかも相反する知見が得られている。その関係性は国により大きく異なることが示唆されているものの、具体的にどのような要因が女性の経済力と結婚との関係性を異なるものにしているのかについては明らかにされてこなかった。

 そこで本報告では既存研究の枠組みを広げ、労働市場構造や社会政策等のマクロ要因を女性の人的資本と結婚意識との関連の媒介要因としてとらえた分析を行う。すなわち、「男性稼ぎ手−専業主婦」世帯を前提とした労働市場構造(長時間労働)や政策が行われ(保育施設や育児休業制度の不充実)、就業と家庭責任の両立が困難な社会において、高い人的資本をもつ女性が結婚に否定的な態度を持つのではないかと仮定し、検証を行う。

 分析結果によると、学歴の高さは、31カ国平均では女性の結婚への肯定的な態度と関連しているが、労働時間の長い国においてのみ高学歴の女性が結婚に対して否定的な意識を持っている。また、保育施設が充実している国では、女性のフルタイム就業と否定的な結婚意識との関連が弱く、高学歴が結婚意識におよぼす正の影響もより強いことが示唆された。これら結果は、女性の人的資本の増加そのものが結婚の魅力を減じるというよりは、むしろ就業と家庭責任の両立が困難な社会構造が、高い人的資本をもつ女性にとっての結婚の魅力の低下の要因となっていることを示唆している。

          
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