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分散保有の株式会社:その叡智とパラドックス

報告要旨

 近代の会社法制とそれを取り巻く社会的・経済的諸制度は、「分散保有の株式会社(publicly held stock companies)」という特徴的な仕組みを生み出した。資本の払戻し禁止と株式の自由譲渡性を2つの柱とするこの仕組みは、事業に対して短期のコミットメントをする意思・能力しか持たない少額・多数の資本を結集して、永続的なコミットメントをする巨額の資本に転換するという、極めて巧妙な制度である。このような叡智に富んだ制度はしかし、次のようなパラドクシカルな状況を発生させた。すなわち、分散保有の株式会社においては、株主は、集団としては、他のどの会社関係者よりも長期のコミットメントを会社に対してしているがゆえに、会社経営に対するコントロール権を保障されているが、現にそのコントロール権を行使する個々の株主は、会社経営に対してごく短いコミットメントしかしていない、という状況である。この状況は、一方では、株主の集合行為問題を発生させ、それによって悪化する経営者のエージェンシー問題への対処の必要性を増大させるが、他方では、株主と他の会社関係者との間の摩擦をも生じさせることになる。やっかいな点は、第一の問題に対処するための株主ないし株式市場の自主的な行動が、しばしば、第二の問題を悪化させること――あるいは少なくとも、悪化させると信じる人々による株主行動の抑制のための政治的・社会的圧力を強めること――である。
 本報告では、まず、コーポレート・ガバナンスという概念の意義ないしその用いられ方について簡単に述べた後、分散保有の株式会社の叡智がどこにあるのか、および、それが引き起こすパラドクシカルな状況について、日本の法制度あるいは経済・社会制度がどのように対応してきたのかについて概観し、最後に、今後の展望を述べることにする。

          
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