研究活動

プロジェクトセミナー

ガバナンスにおける『正統性』の諸相

報告要旨

 「ガバナンス」の概念の下に語られる現象や問題は極めて多様かつ曖昧であり、各領域に即した分析を超えて総合・一般化することを拒むようにも見える。こうした状況を念頭に、本報告では、様々な「ガバナンス」領域において「正統性」がいかに主題化されているか(またはされないか)という分析視角から俯瞰することを通じて、現代において「ガバナンス」を横断的に語ろうとすることがそもそも如何なる意味を持ちうるか、を考えたい。もとより「正統性」自体が論争提起的な概念であるところ、本報告では「強制の契機を伴う決定が、その内容の正しさ(正当性)に異論がある者に対してもなお、自らへの服従を要求できるような、決定のされ方の条件ないし性質」という暫定的な定義を与えた上で用いる。ただしこれは議論のための足場に過ぎず、「正統性」概念を巡る論争への積極的な貢献を企図するものではない。
 本論では、まず近代的「正統性」のプロトタイプを与える制度枠組みとしての立憲民主主義、すなわち「公益」的決定に係る民主的正統性の要求と、公私二元論による私的領域の正統化問題からの解放、を措定した上で、「ガバナンス」が語られるのはこのプロトタイプが何らかの意味で変質・空洞化・相対化を迫られている場面ではないか、との仮説に基づいて、様々な文脈における「正統性」問題の語られ方を概観する。具体的には、行政国家化とそれに対する行政法の対応、政策実現過程のグローバル化がもたらす国家法秩序の従属化と断片化、国境を越える私的ネットワークにおける規範や基準の形成が持つ事実上の強制力および公私の要素の混淆、「参加」「自治」のような市民社会の側からの国家的正統性への挑戦、および市場的決定の位置づけ、が扱われる。これらの各文脈における「正統性」論のいわば陰影として、現代の「ガバナンス」の諸相(あるいはその「総合」の可能性?)を炙り出すことを試みたい。

          
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