研究活動

プロジェクトセミナー

都市のガバナンスとコモンズ ――法社会学の視点から

報告要旨

 今日の都市問題は、急速な都市化に伴う開発紛争を中心としたこれまでのものから、都市の老化、成長低下、人口減少を与件として土地の過少利用、インフラの維持管理負担の問題へとシフトしつつある。都市化時代では、ガバメントによる規制の強化と実効性の確保が求められたが、今日では、各セクターの協働による資源の持続的な管理システムの構築、すなわちガバナンスが求められているとも言えよう。
 本報告では、とりわけ都市のガバナンスにおける地域コミュニティの役割に注目し、エリノア・オストロムのコモンズ研究を基盤としながら、都市におけるローカル・コモンズの管理と利活用を促進するための法の役割を考察する。
 オストロムは、ハーディンの「共有地(コモンズ)の悲劇」論に対して、国家の集権的管理でもなく、私有化・市場メカニズムによる解決でもなく、地域コミュニティの共同管理が持つ優位性を理論的に解明した点に功績があった。  ただし、このオストロムも地域コミュニティの自治のみが資源管理の万能な解決策であると論じたのではなく、国家・地方自治体による権力的解決と市場による資源配分のそれぞれの長所を取り込んだ制度ミックスの必要性を説いていた。地域コミュニティが農山村ほど強固ではない都市においては、公的機関、市場、地域コミュニティの三者の連関でコモンズのガバナンスを捉える視角がより重要となろう。
 報告では、①集合住宅に併設する形で供給される児童公園・キッズガーデンの管理についての実態調査と制度比較、②中古マンションの取引・契約過程でのマンション全体(=コモンズ)の管理の関する情報流通についての実態調査と判例検討、を手がかりとしながら、公的機関、市場、地域コミュニティのそれぞれが果たすべき役割を考えていく。
 その際、特に重要となるのは、ガバナンスのあり方を規律する法の役割である。考察では、これまでの法理論との関連において法・法学にとっての新たな課題をスケッチしてみたい。

          
このページの先頭へ