研究活動
プロジェクトセミナー
転換期における反対党の政治選択―イギリス・ブレア政権成立を読み直す
- 報告者: 今井 貴子 (成蹊大学法学部)
- 日時:2012年11月20日 15時-16時30分
- 場所: 社会科学研究所センター会議室(赤門総合研究棟5階 549号室)
- 対象:学生・院生・教職員
報告要旨
本報告は、イギリスの労働党が1997年に政権交代を実現するまでの党内政治過程の分析を通じて、福祉国家再編期に政権獲得を目指した政党の政治選択のあり方を検討する。周知のように、1997年の政権交代は、労働党によるイギリス政治史上有数の劇的な地滑り的勝利によって達せられた。労働党は政権奪還後、財政規律を堅持する一方で、失業者支援プログラムや新しい所得保障制度をはじめとした雇用・福祉政策を実行に移した。労働党政権下の雇用・福祉政策にかんしては、「経済的効率と社会的公正の両立」という理念を軸とした革新性に注目が集まったのだが、他方においてその革新性は大きな限界をともなっていたと理解されてきた。かかる限界が指摘されたのは、市場経済からの外生的圧力、あるいは18年続いた保守党政権の政策遺産といった国内要因によって、新政権が革新性を発揮する余地はきわめて限られていたとの見解に由来する。制約への適合と革新性という異なるベクトルを併せもつかのような労働党政権の「改革」とはいかなる性質をもつものであったのか。この点を考察するうえで本報告が着目するのは、総選挙前のマニフェストの作成過程、とりわけ政策デザインの根底をなすアイディアをめぐる党内論争である。報告では、福祉国家再編期における労働党のマニフェストの形成過程について、党の組織構造、権力配置、党首脳部の権力資源を分析し、特定の政策アイディアがどのようにして党内で支配的な地位を得たのか、その選択が政権交代後のイギリスの福祉国家「改革」にどのような方向性を与えたのかを考察する。