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効用の個人間比較と集団的意思決定

報告要旨

 経済理論にいわゆる合理性とは、個人が自己の効用を最大化すべく行動する事を指す。社会などの集団にはこの意味での経済学的実体は無く、その意思決定は集団を構成する個人の効用の総和、加重和、ないし何らかの関数を以てその集団全体の効用と見做し、それを最大化すべく行われる。これは言い換えると、集団内に選好を異にする個人が存在する場合、何れを優先するかにより集団内個人間に利害対立が生じることを意味する。
 このように効用の個人間比較が不可避な場合、「情に棹差せば流される、理に棹差せば角が立つ」。即ち、話の持って行き方の巧い者が勝つ、というやり方では明らかに経済合理性に反する。そうかと言って、超越的な権力や規則を楯に機械的に決めるという方法が万能でない事も亦、高名な「不可能性定理」の証すところである。むしろ、世には何故か「金で解決する」事を賤しむかの如き偏見が蔓延しているが、効用の個人間比較には価格メカニズムの奏功する余地が大きい。競りで意思決定し、決定権を勝ち取った者はその決定に服する者に対価を支払う、というような方法である。卑近には一般的な財貨の売買から、より大掛かりには裁判所の調停や労使交渉など、利害対立を値踏みで解決すれば一般的には当事者全員の満足を得やすい。
 しかし経済理論の預言するように、外部性の存在する環境下では価格メカニズムも万能ではない。外部性を正しく内部化するような修正されたメカニズムが必要になる。本題では特に、一般に民主的と信じられている多数決制などの意思決定方法に内在する問題点を、外部性という点に着目しつつ論ずる。

          
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