研究活動
プロジェクトセミナー
「ガバナンスを問い直す」の今―Are Zombies Winning?―
- 報告者: 大沢真理 (社会科学研究所)
- 日時:2012年4月17日 15時-17時
- 場所: センター会議室(赤門総合研究棟5F)
- 対象:教職員・院生・学生
報告要旨
経済学者ポール・クルーグマンは、2010年12月19日のニューヨーク・タイムズのコラム“When Zombies Win”を、次のように書きだしている。「歴史家が2008-2010年をふり返った時に、最も当惑するのは、失敗した理念が奇妙にも勝利したことだろう。自由市場原理主義者たちはあらゆることについて間違っていた。なのに、彼らはいまや以前よりも全面的に政治の場を牛耳っている」。
これはアメリカの文脈での指摘だったが、欧州では、2009年10月に露呈したギリシアの財政赤字問題(GDP比12%以上を3.7%と粉飾していた)が、2011年にはユーロ圏全域の政府債務危機へと展開し、公共サービスの削減などによる財政引き締めが主流となっている。欧州労働組合研究所から2012年に刊行された共同研究報告書は、クルーグマンの問題意識を共有して、“A triumph of failed ideas, European models of capitalism in the crisis”をタイトルに、EU主要10か国の動向とともにEUレベルの経済ガバナンス改革と緊縮財政方策を検討している。
日本では2009年9月に、「国民の生活が第一」、「コンクリートから人へ」などをスローガンとして政権が交代し、経済再生、社会保障の機能強化、財政再建が模索されるなかで、2011年3月11日に東日本大震災・原発事故が起こった。その被害の実態と復旧の過程が、日本の従来のガバナンスの失敗を露わにしながらも、「復興」の看板のもとに“ゾンビが蘇っている”かのような事象が見られる。避難・救援・復興の意思決定等における男女共同参画の欠如、所得再分配機能の強化を棚上げした復興特別課税、「土建国家」への大逆流などである。
本報告では、以上の経緯を概観するとともに、「グッド・ガバナンス」を捉える手がかりを検討する。その際、経済物理学、エージェント・シミュレーション、社会疫学などの示唆を勘案したい。