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報告要旨
所得格差は教育格差の源泉であり、教育格差は次世代の所得格差の決定要因である。ゆえに、現世代の所得格差は世代を超えて受け継がれて行くことになる。この教育投資を通じた所得格差の世代間連鎖という現象は、家計所得が教育投資の決定要因となっているというミクロ的事実を意味するのみならず、現世代における所得分配そのものがその社会において求められる教育システムを決定するというマクロ的現象をも意味している。
本報告では、まず前半部分において所得格差と教育システムの関係をマクロ経済学的な視点から分析した研究をいくつか紹介する。そうすることにより、所得格差が教育投資を通じてどのように次世代の所得格差へと継承されて行くかを考察する。特に、公教育の質が民主主義的投票によって決定される経済においては、所得分配と教育システムが密接に関連する点に焦点を当てる。さらに、「望ましい」教育システムは、その経済の生産構造に依存する可能性も考察する。
後半部分では、家庭環境が子供の教育成果に対して与える影響について、アメリカのデータ(GSS)や日本のJGSS、および大阪大学のCOE親子調査を用いた実証分析のいくつかを紹介する。特に、様々な家庭環境の中から幼少期における母親の就業の影響に焦点を当て、母親の就業が子供の最終学歴に対してどのような影響を与えるのかについて考察する。そこでは、親の性別や子供の性別に依存してその影響が異なることが示唆され、お手本効果や親の学歴期待なども最終学歴を決める要因となりうることを示す。
最後に、所得格差と教育投資の関係がグローバル化によってどのような影響を受けるかについての分析を紹介し、今後を展望する。