研究活動
プロジェクトセミナー
報告要旨
近年の日本の法制度の重要な変化の1つは、資源節約型司法からの脱却である。戦後日本の司法は、少ない法律家、少ない訴訟、少ない司法予算によって特徴づけられてきた。それを支えていたのは、司法を必要とする程度が相対的に少ない統治や経営のあり方であった。しかし、その状況は現在大きく変わりつつある。弁護士の数は急増し、とくに2005年以降の5年間で、増加する弁護士が大都市圏だけに吸収されるのではなく、広く全国に浸透していく傾向がデータから読み取れる。訴訟数も増加傾向にあり、裁判所は、40年にわたる少数安定の裁判官組織の方針から転じて、積極的に裁判官の増員を進めている。さらに、低所得者に対する法律扶助の予算増も顕著である。日本の司法は、より多くの資源を動員するシステムへと変貌しつつあるように思われる。
このような変化の直接の契機は1990年代後半以降の司法制度改革であるが、しかし、この司法制度改革自体、日本社会のガバナンスの変化と密接に連動している。現在、日本社会のさまざまな場面で模索されている新たなガバナンスのあり方は、随所に司法機能の強化への要請を組み込んでおり、それが司法制度改革の動因となるとともに、実際にも資源節約型司法から資源動員型司法への変化を帰結していると見ることができる。
本報告では、本プロジェクトが注目する3つの分野である生活保障、ローカル・ガバナンス、市場・企業のそれぞれにおけるガバナンスの変化が司法機能の強化につながるモメントを持つことを確認した上で、現代日本のガバナンスの重要なプレイヤーの一つである司法の変化の状況と、しかしなお日本の司法がかかえる課題を、司法統計および報告者が関わったいくつかの調査のデータに即して実証的に明らかにする。
※ディスカッション・ペーパー「現代日本のガバナンスと司法制度改革」は研究成果のページからご覧になれます。