研究活動

プロジェクトセミナー

労働市場の特性からみたデフレの原因と処方箋 ~スウェーデンを中心とした国際比較を踏まえて~

報告要旨

 デフレからの脱却がわが国の最優先課題の一つになっているが、その主因は貨幣的な側面よりも実体的ファクターに求められる。マクロ経済的には、生産要素が成熟・衰退部門から新規・成長部門にシフトしないなか、既存部門で過剰供給状態に陥るとともに経済全体の生産性が低下していると説明できる。ミクロ的には、個々の企業が低収益のもとで生き残りをかけて人件費を含むコスト削減に着手し、その結果として賃金が下落して安価なものしか売れないという「値下げ・賃下げの罠」の状況に陥っている。
 日本企業は近年、株主圧力の強まりやグローバル競争を背景に賃金の抑制・削減スタンスを継続してきたが、2000年代後半期には、労働分配率が賃金と生産性の合理的な関係から導かれる均衡水準を下回る水準まで低下した。世界的に景気が持続的 な回復軌道にあったこの時期に、主要先進国の中では賃金が下落基調を続けたのはわが国のみであった。これは直接的には、同じ産業内で多くの企業が熾烈な高機能化競争を繰り広げ、生産性が向上しても賃金引上げに反映しない、国際的見れば特異な日本企業の値付け行動によるものであるが、それは雇用維持を最優先して賃下げを受け入れるという、わが国労働組合の行動様式に方向づけられたものでもある。さらにその背景には政府による既存産業維持・雇用維持政策と労働移動を進める社会的な仕組みの未整備を見逃せない。
 企業がグローバル市場を前提として事業構造の選択と集中を行うことで生産性向上を図ることがデフレ脱却につながる王道であり、それには事業間・産業間の労働移動を進めることが不可欠になる。外部労働市場が整備されていないわが国においては、労組が余剰人員の整理を認める一方、積極的労働市場政策による労働力移動に取り組んできたスウェーデンなどを参考にしつつ、政労使で連携した産業・雇用構造転換への取り組みが求められる。

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