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国民皆保険制度導入の影響分析

報告要旨

 国民皆保険の導入に伴い医療サービスの実質価格が下がることにより、需要面では医療機関の利用が必要以上に増加するモラルハザード、供給面では病院の参入、さらには、国民の健康面への効果など、様々な影響が生じうる。本研究では、1961年の日本の国民皆保険導入の事例用い、国民皆保険制度の導入が国民全体に与える影響について実証分析を行う。具体的にはまず、医療施設利用(入院患者延数、外来患者延数、新規入退院数)への影響を調べ、また、保険導入による永続的な医療需要増によって病院建設が促進されたかを検証する。健康への効果の指標としては、先行研究で多用される死亡率に加えて、軽度の疾病率の指標として小中学生の虫歯罹患率も用いる。さらに、需要増加に対する医療サービスの供給力の指標として、病床数、医師数などへの影響も推定する。
 識別戦略としては、皆保険導入前の都道府県間の保険加入人口比率の差を利用する。皆保険導入政策が本格的に開始されるのは1957年であり、1961年には全国的にほぼ100%の加入率になるが、それ以前は、国民健康保険の導入は市町村の任意であり、都道府県間でかなりのばらつきがあった。この地域差を利用し、さまざまな公刊統計から作成した都道府県パネルを用いて、差の差推定を若干変形したモデルを推計する。
 暫定的な結果としては、まず、皆保険導入によって保険加入率が大きく上昇した地域では医療サービス利用の大幅な増加が見られた。併せて病院の数も増加したが、これは皆保険導入による永続的な需要増加に反応した、供給側の参入行動と解釈できる。健康面の指標では、死亡率にはほぼ影響が見られなかった一方で、虫歯罹患率には減少傾向が観察された。すなわち、死に至るような重篤な病気にはあまり影響がなく、より軽度の疾患だけが減少したと解釈できる。供給力の指標では、病床数は増加したものの、医師や看護婦の数の増加は見られなかった。

※ディスカッション・ペーパー「国民皆保険制度導入の影響分析」は研究成果のページからご覧になれます。

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