研究活動
プロジェクトセミナー
フードシステム論と現代日本の食料・食品問題
- 報告者: 生源寺眞一 (東京大学農学部長)
- 日時:2010年9月30日 15時-17時
- 場所: センター会議室(赤門総合研究棟5F)
- 対象:学生・院生・教職員
報告要旨
食料をめぐって大きく変わりつつある国際環境を踏まえながら、日本農業の現状を俯瞰する。そのうえでフードシステム論の枠組みに依拠しながら、現代日本の食料・食品のポジションを確認し、いくつかの基本的な課題について議論を深めてみたい。フードシステム論は、現代の食の問題を素材産業である農業・水産業から加工・流通・外食の食品産業を経て消費者に至る一連の流れとして理解することを目指している。また、川上の供給側から食の問題を把握しがちであった伝統的なパラダイムに対して、川下の消費者を起点として全体像に接近する姿勢を強調する。現代日本のフードシステムは著しく国際化している。また、所得形成力・雇用吸収力の両面で大きなシェアを占めること、空間的な輸送距離と産業連関的な距離の拡大が進んだこと、情報の非対称が特に食品産業と消費者のあいだに顕著であることなどによって特徴付けられている。これらの特徴がさまざまな課題にもつながっている。フード・セキュリティの確保は、複雑化したフードシステムのもとでも依然として重要なテーマであり続けている。この論点については、日本・東アジア・世界の三層構造のもとでの問題把握が有効であると考えられる。一方、フード・セーフティの面では、トレーサビリティ・システムの導入や食品安全制度の国際的な調和といった新たな問題に直面している。食品が信用財化しつつある中で、情報の受発信技術の巧拙と情報の真実性を担保するシステムのあり方も問われている。現代の食料・食品の問題を考えることは、一面では市場経済の有効域、あるいは市場経済を分析する経済学の有効域を問い直す作業にも結びつく。いくつかの具体的な論点を深める中で、この点についても報告者の考え方を提示してみたい。
※ディスカッション・ペーパー「フードシステム論と現代日本の食料・食品問題」は研究成果のページからご覧になれます。