研究活動
プロジェクトセミナー
ガバナンスを問い直す:福祉レジーム、資本主義の多様性、生活保障ガバナンス
- 報告者: 大沢真理 (社会科学研究所 教授)
- 日時:2010年4月27日 15時-17時
- 場所: センター会議室(赤門総合研究棟5F)
- 対象:教職員・院生・学生
報告要旨
1980年代後半以降、福祉レジーム論や「多様な資本主義」論が盛んになり、欧米社会の分析とその政策的インプリケーションにおいて一定の成果をあげてきた。しかし、それらはいずれも日本の特徴づけに成功していない。 福祉国家やレジームの比較研究としては、エスピン-アンデルセンが提起した3類型(自由主義、保守主義、社会民主主義)が広く知られている。そこでは、社会保険制度のカバレッジや給付水準など、国家福祉が分類の基軸になっている。またそれは、協同組合・共済組織・アソシエーションの経済諸活動を包含する「社会的経済」(別名「サードセクター」)を、位置づけていない。そのためか、比較福祉レジーム論では、国家福祉が未発達な時代や社会、国家福祉の比重や役割が低下ないし拡散する時代や社会は視野に入りにくい。日本は工業化や福祉国家の形成における後発国の1つであり、諸類型の「ハイブリッド」や「例外」として片付けられがちだった。 そうしたユーロセントリックなレジーム論の限界を意識して、日本を立脚点とする有力なレジーム論も登場した(Pempel 1998; Campbell 2002)。しかしそこでも、ジェンダー視角を欠くための誤解惹起的な議論が見られる。20世紀後半の福祉国家が「男性稼ぎ主」にたいする所得移転を中心とするという意味で、ジェンダー関係を基軸の1つとしていたことに、改めて注意するべきだろう(宮本2002)。 そのような福祉国家が「新しい社会的リスク」に対応できず、多くの人々にとって、生活と社会参加が困難であるという「社会的排除」が広範に現れてきた。社会的包摂の条件を探ろうとするなら、家族や企業、およびコミュニティや非営利協同組織などの制度・慣行が、政府の社会政策といかに接合するかを検討する必要がある。これを生活保障システムのガバナンスとして捉えることが、有効ではないだろうか。その枠組みにおいて、日本社会はどのように捉えられるだろうか。