聯想集団によるIBMパソコン事業の買収

 聯想は1997年以来中国大陸のパソコン市場で第1位の座を維持し、2000年以降は2627%程度のシェアを維持している(注1)。一方、IBMは言うまでもなくコンピュータのパイオニア的存在だが、パソコン事業は2003年に約1億ドルの赤字を経常していたので、聯想への事業の譲渡は、不採算部門を切り離すという意味を持っている。この買収によって200479月期に2.2%だった聯想の世界でのパソコン販売台数シェアは、IBM5.5%が加わることで、デル(16.7%)、ヒューレット・パッカード(15.0%)に次ぐ世界第3位となる。IBMのパソコン事業に従事する1万人の従業員(うち40%以上が中国で生産事業などに従事し、25%近くがアメリカにいる)が聯想集団に加わり、聯想集団の従業員規模は19000人に膨れあがる(注2)。IBMの中国における4000人ほどの従業員のほとんどはIBMと中国長城計算機集団公司との合弁企業、深圳長城国際信息産品有限公司の従業員であると見られるが、この工場も聯想の手に渡るという。となると、聯想は中国でのライバルメーカーである長城計算機と合弁を組むことになるのであろうか。

 聯想は総計175000万米ドルを支払ってIBMからパソコン事業を買収することになった。すなわち、聯想集団は少なくとも65000万ドルを現金、および6億ドル分の聯想集団の普通株をIBMに提供する。聯想の発行済み株式は747322万株、香港証券取引所での時価(2004123日時点)は2.675香港ドルであり、ここに6億ドルのIBM保有株が加わることで、IBMは聯想集団の株式の18.9%を保有する第二の株主になる。さらに、聯想集団は約5億ドルの純負債をIBMから引き取る(注3)。

 年間のパソコン販売台数が300万台ほどの聯想集団が、年販売台数900万台のIBMのパソコン事業を買い取るというのは、決して安い買い物ではない。20049月期の聯想集団の純資産は68000万米ドルほどなので、聯想がIBMに支払う現金で純資産がほぼ底をついてしまう計算になる。さらに5億ドルの純負債を引き取るとなると、このままでは債務超過になってしまう。おそらくここでいう純負債とは流動資産・負債に関するもので、固定資産は別の勘定になっているのであろう。いずれにせよ、赤字が続いているIBMのパソコン事業を引き取ることは聯想集団にとって相当な重荷になる。聯想集団の20043月期の純利益は13500万米ドルなので、約1億ドルの赤字であるIBMのパソコン事業が付け加わると、現状維持のままでは利益がほとんどなくなってしまう。IBMのパソコン事業を赤字から立て直すだけのプラスアルファを聯想が持っているのかどうかが問われる。第一に、パソコンのハードウェアそのものにおいて聯想がIBMと同等のものをより低コストで生産できるかどうかが問われる。もしそうであるならば、聯想は5年間IBMブランドをライセンシングすることになっているので、従来より低コストで生産されたパソコンをIBMブランドで売ることでレントが生まれる。但し、IBMがブランドを有償で使用させるのであればレントの一部はIBMに吸い上げられてしまうことになる。第二に、パソコンの販売ノウハウにおいて聯想が何か新たに注入できるかどうか。この点については中国以外の市場については悲観的にならざるを得ない。聯想は中国以外では無名であり、経験に欠けているため、当面は買収したIBMのパソコン事業に付帯する販売ルートとそこに蓄えられた販売ノウハウに依存せざるをえない。しかも、そのルートに乗せて売るのは聯想のLenovoブランドではなく、当面はIBMブランドのパソコンになろう。5年間のブランド使用期間中に果たしてLenovoブランドをIBMに変わるものとして確立できるかどうかが問われる。但し、中国国内においても有力なブランドの一つであるIBMブランドを聯想が取り込むことで、デスクトップでは30%余り、ノートブックでは40%ほどの市場シェアを聯想集団がとることになるので、中国市場において聯想集団がより大きな利益を上げる可能性はある。

 一般投資家も、IBMのパソコン事業を買収した聯想集団の将来に対しては悲観的な見方の方が強かったようで、香港証券取引所では買収発表後、聯想の株価が低下したと伝えられた。とはいえ、聯想のこれまでの発展過程や業務構造などから見て、今回のM&A劇は無謀と言えるほどのものではなく、おそらく聯想は事業全体を成功に導くことができるのではないかと筆者は推測する。成長著しい中国市場において大きなシェアを持っているということが成功の基盤になるだろう。

 

 

1 「聯想集団」(今井理之編著『成長する中国企業 その脅威と限界』財団法人国際貿易投資研究所/リブロ 20042) 29-45ページ。

2 『朝日新聞』2004128日(夕刊)

3 聯想集団プレスリリース(2004128日)およびアニュアルレポートによる。