中国自動車産業情報の収集                   丸川知雄

(『中国情報源』20062007年版所収)2006214

 

 私は中国の自動車産業の動向や、自動車メーカーと部品メーカーの取引関係について研究者としての立場から調べている。そんな私がどうやって情報を集めているか、ここで紹介しよう。

 

1 産業の基本情報

 中国の自動車産業に関する情報収集の基本は『中国汽車工業年鑑』(中国汽車技術研究中心・中国汽車工業協会より毎年刊行)である。この年鑑には、自動車産業の生産台数、資産、従業員数、利潤などのデータが網羅されている。1983年から刊行されているが、データを提示するスタイルが基本的に変わっていないのが有り難い。ただ、前年の状況が翌年9月ぐらいになってようやくわかるので、速報性を求める人にはこの年鑑だけではもどかしいだろう。

 月単位でもっと速く詳しい情報がほしい人にはFOURINの「中国自動車調査月報」を購入したり、中国汽車技術研究中心のサイトである中国汽車工業信息網(www.autoinfo.gov.cn)の会員になるのがよいのだろうが、そこまでの資金とニーズがない私はたいがい中国のインターネットで賈新光氏のレポートを捜して読んでいる。賈氏のレポートには各社の生産販売状況なんかも詳しく紹介されている。ただ、賈氏がこのレポートを書くのをやめてしまったときにはどうするのか、私にはわからない。かつて業界紙の『中国汽車報』を購読していたこともあったが、掲載される情報が気まぐれで当てにならないため最近は利用していない。

 

2 部品メーカーの情報

 部品メーカーについて調べる場合、FOURINの『中国進出世界部品メーカー総覧』(毎年刊行)は値も張るがかなり有用である。各種資料や新聞記事などを丹念に拾ってまとめられている。CD-ROMがついていて部品メーカーを検索することもできる。 中国で出版されている資料では『中国汽車零部件供応商手冊』(吉林科学技術出版社、毎年刊行)や『中国汽車工業企事業単位大全』(機械工業出版社、毎年刊行)によって部品メーカーの状況を把握できる。これは部品メーカー1社ごとについて生産品目や販売先をリストアップしており、特に前者には出資者や売上なども出ていて有益だが何年時点での数字なのかがよくわからないのが難点である。なお、前者の資料を編集している北京西実誼汽車図書有限公司という会社は自動車に特化した出版・書籍販売を行っており、北京のマンションに居を構える同社の書店は、自動車関連の技術書や企業ダイレクトリーの類が他のどこよりも豊富である。ただ、自社出版の本でさえ在庫切れという場合もある。中国での情報収集はとにかく焦らずあきらめないことが必要だ。

 また、インターネット上で得られる情報もけっこう豊富になってきた。部品メーカーの多くは自社製品を写真入りで紹介しているし、どの自動車メーカーに何を売っているかまで詳しく紹介しているところも多い。反面、中国では株式非公開の企業がほとんどであることもあり、企業業績を公開する文化は根付いていない。売上高や利益をネット上で公開しているところは中国では稀であり、従業員数といった基本的情報さえ正確に載せていない会社が多い。完成車メーカーでも、基本情報になると、どのメーカーも情報は余り出しておらず、会社で配付している年報にしか出さないケースが多いようである。企業の基本情報に関しては元政府の権威で情報を集めている前述の『年鑑』が依然として頼りである。

 中国の自動車の勉強をしていて頭が痛いのは、中国語で表記されるいろいろな部品の名前が何を指しているかがよくわからないし、そもそもその日本語訳ないし英訳がわかっても、それが自動車の中でどのような役割を果たしているのかがわからないことである。最初、私は『英漢日汽車工程辞典』(北京理工大学出版社、1995年)のような辞典の類をひもとき、続いて橋田卓也『図解クルマのメカニズム』(山海堂、1995年)を読んで部品の働きを理解しようとした。中国ではいろいろな車の分解図が出版されているので、それを手に入れるのも有益である。例えば上海VWのサンタナに関しては『上海桑塔納轎車結構図冊』(上海科学技術出版社、1997年)というカラー印刷の非常にきれいな構造図が出ており、ここには英語と中国語で部品名が丁寧に書かれているので、部品の形と名前はこれでほぼ完璧に把握できる。

 

3 書籍とインターネット

 産業動向に関しては『中国汽車市場展望』(国家信息中心)や最近刊行が始まった『中国産業地図―汽車』(社会科学文献出版社)といったレポートが定期的に出ている。一方、中国での自動車産業に関する研究書の出版は低調で、日本での出版の方が多い。最近の研究成果としては手前みそながら丸川知雄・高山勇一編『新版グローバル競争時代の中国自動車産業』(蒼蒼社、2005年)を挙げておく。

 自動車産業の歴史に関しては、業界の正史として『中国汽車工業史(19011990)』、『中国汽車工業専業史(19011990)』(共に人民交通出版社)があるが、最近の注目すべき出版は陳祖涛の口述『我的汽車生涯』(人民出版社、2005年)である。まだ中身は読んでいないが、いずれ時間ができたらじっくり読んでみたい。

 中国のインターネットには自動車関連のウェブサイトがかなりある。どれがいいのかはいまだによくわからない。製品情報は多いが、市場動向や企業情報となると、どのウェブサイトも同じ記事を転載しているので、結局検索サイトで検索をかけて、同じ記事が何十ものサイトに転載されているうちの一番上にきたものを読むということになる。要はどのサイトも中身は大同小異ではないかと思う。各社ごとの生産台数といったちょっと踏み込んだ内容の企業情報となると、もう有料情報になってしまって、私には手が届かない。