片山修『トヨタはいかにして「最強の車」をつくったか』小学館 2002年 pp.294

 

 現役からOBまで合計20人のトヨタ社員に対するインタビューによって構成された本で、テーマは「カローラ」の開発である。インタビューの対象者がカラーデザインを担当した女子社員から購買担当まで、初代カローラのチーフエンジニアから第9代まで、と幅広く、自動車がどのように開発されるものなのか浮かび上がってくる構成になっている。自動車のデザインに関わる人が初めの方に多く登場するが、自動車のデザインというものがいかなるものであり、どのように進められるかについて特に多くのことを教えられた。

 本書を読んで改めて日本企業の良さを感じた。部署の異なる、相互に交流さえないかもしれない人々が、みな「良い車を作りたい」という意志でまとまって粉骨砕身している。みな車づくりが面白いから頑張るのであって、自らの利益のために仕事するという姿勢は少なくとも本書からはうかがえない。こういう会社では業績主義の賃金体系を導入する必要はないように感じられる。いまトヨタは日本のなかで最も業績のよい企業の一つであるが、トヨタの報酬制度が格別に先進的だという話は聞かない。

 そして仕事に対する日本人の姿勢というのはトヨタ以外の会社でもやはり同じであるような気がする。ではなぜ他の企業はトヨタみたいになれないのだろうか。

 おそらく一般の大企業では経営の目標が「良い車を作る」というほど単純明快なものであり得ないからであろう。個々には「良い冷蔵庫を作る」、「良いVTRを作る」と張り切っていても、両者が衝突してしまったり、良い物作り自体もはや意味がないとする人もいたりで、社内の目標を一致させるのが難しい。みなの目標が異なるとき、本人は一生懸命にやっているつもりでも端から見ると問題をややこしくしているだけという人も出てくる。また、一生懸命なふりをして陰で私利を図る人も出てきて、みな疑心暗鬼になる。そういうときやはり誰かが目標を指し示し、目標に照らして社員を評価する必要がある。トヨタも豊田喜一郎や豊田英二の時代には経営者による目標設定が行われたが、それ以降はその必要がなくなったことが本書から読みとれる。だが、他の会社は今こそリーダーシップが必要なのに、それが欠けているのではないか。

 ところで、インタビューをもとに一般向けの本を書こうとする場合、一般には馴染みのない業界用語をわかりやすく解きほぐすところに苦労があると思う。本書は比較的よく解きほぐされているが、なお初出時には意味のよくわからない用語があった。