東京大学教養学部 2013年度冬学期 「政治経済学」 副題:マクロ・ヒストリー

授業の目標、概要
 人類の歴史を大きくとらえるさまざまな歴史観(マクロ・ヒストリー)を紹介し、その妥当性を検討します。
 マクロ・ヒストリーとは、単に歴史を記述するものではなく、歴史の動きを内在的または外在的要因によって説明しようとする試みです。もちろん歴史学とは無縁ではありませんが、むしろ思想の系譜としては、哲学や政治思想、経済思想の分野から生まれてきたものです。
 マクロ・ヒストリーには、技術や生産力の成長が社会の変動をもたらす、自然環境によって社会の発展パターンが決まる、といったように客観的な条件によって人類の歴史を説明するものと、民主主義や自由、あるいは特定の宗教などの理念が歴史を動かすと説明するものとに分けられます。前者を「客観史観」、後者を「主観史観」と類型化できそうです。
 また、おのおのの社会の内在的発展を見ようとする歴史観、社会の間の相互作用を重視する歴史観、さらに世界全体を見なければ意味がないとする歴史観など、歴史を見る単位による類型化も可能です。
 こうしてさまざまな歴史観を対比し、関連づけ、類型化することを試みたいと思います。また、理論の紹介にとどまらず、できればデータを用いて理論を検証することも試みたいと思います。
授業のキーワード :マクロ・ヒストリー、歴史、人類史、経済体制

教室:駒場7号館721教室

授業計画
導入
1.理念と歴史
 ヘーゲルの歴史哲学、フクヤマの「歴史の終わり」など
2.生産力と歴史
マルクス・エンゲルスの唯物史観後進国論(日本資本主義論争など/宇野弘蔵の三段階論/ロストウのテイクオフ論/従属理論/世界システム論/雁行形態論/収斂論/リオリエント中所得国の罠など
3.自然環境・地理と歴史
食料生産の起源病原菌と歴史/金属器と人類
4.社会・文明の間の競争や影響
文明の生態史観文明の衝突
5.善悪史観、その他

授業の方法: 講義をします。パワーポイントを時々使います。パワーポイントの内容はダウンロードできるようにします。
課題図書リストを配布しますので、その中から一冊選んで読み、レポートを提出してください。レポート課題
授業は日本語で行いますが、レポートと試験は日本語、english、中国語のいずれで書いてもいいです。
成績評価方法レポートおよび期末の試験によって行います。
教科書使用しない。
参考書:プリントを配付する。

実際の進行状況(今年度初めて話すことばかりですので、計画通りには進まないと思います。受講生の皆さんが五里霧中にならないよう実際の進行状況を以下で報告します。)

導入

第1章 ヘーゲルの歴史哲学 PPT(注意事項が書いてあります) (10月7日)

第2章 マルクスの唯物史観 
1.マルクスの歩み 
2.唯物史観の「公式」 
3.ヘーゲルとの比較 
4.唯物史観、弁証法、階級闘争 
5.資本主義社会の生産関係 (10月15日) 
6.唯物史観の応用法(10月21日)

第3章 日本資本主義論争 
1.日本史における唯物史観
2.日本資本主義論争の経緯
3.どちらが正しかったのか?(10月28日)

第4章 宇野理論の歴史観 

第5章 日本の人口と生産力:歴史人口学のパースペクティブ PPT(11月5日)

第6章 従属理論(11月11日) 世界システム論、世界資本主義論(11月18日)

第7章 リオリエント:アジアの時代
1.序論 
2.1500-1800年の世界貿易 
3.アジア中心の世界経済 PPT(12月2日) 
4.アジアの衰退と西欧の勃興 
5.世界史像の方向変え(リオリエント) 
6.浜下武志の朝貢貿易システム論 
7.フランク世界史像の問題点

第8章 国民国家の経済発展
1.ロストウの経済成長段階論 PPT(12月9日)
2.赤松要の雁行形態論
3.ガーシェンクロンの後進国成長論(12月16日)
4.ハジュン・チャンの保護貿易論
5.新古典派の収斂論

第9章 政治思想と歴史(1月15日)
1.「歴史の終わり」
2.「文明の衝突」(1月20日)

第10章 生態環境と歴史
1.文明の生態史観
2.地形、動植物と歴史

第11章 私なりのまとめ

試験問題・解答例・採点結果