社研セミナー

「ホフマン卿による文脈主義的契約法理の盛衰と英国契約法の行方」
石川博康(社会科学研究所)

日時:2017年12月12日 15時00分-16時40分
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)

報告要旨

 英国契約法おいて、法ルールの明晰性と予測可能性を確保することは、法の安定的な運用にとっても、また契約当事者の実用に資するためにも、最重要の価値を有する事柄であると長らく考えられてきた。そのため、取引慣行や個々の取引の背後にある具体的事情を考慮したり、合理性や公平性といった不明確な観念に基づいた判断を行ったりすることに対しては、常に強い警戒感が向けられてきた。しかし、近時の判例においては、契約の解釈や黙示条項の認定などに際して、取引慣行や取引上の文脈を積極的に参照しようとするものが現れており、特に、1995年から2009年まで貴族院の法官議員(Law Lord)を務めたホフマン卿(Lord Hoffmann)が示した一連の法理は、そのような近時の英国契約法における文脈主義的な傾向を示す端的な例として知られている。以上の傾向に関しては、EU法や大陸法の契約法体系との調和の必要性に応えるという側面があったとも指摘されているが、ここで注目されるべきは、EU離脱(Brexit)の方針が国民投票によって決定される2016年以前から、ホフマン卿の提示した文脈主義的な契約法理からの後退ないし撤退という方向性が、契約の解釈準則等をめぐる判例法理の展開として既に示されていた、という点である。従って、ホフマン卿の文脈主義的契約法理の意義を考える際には、それらの諸法理が判例上いかにして限界付けられたのかという点をも含めた理論的考察が必要とされることになる。このように、英国契約法が、近時の判例の展開として、文脈主義と形式主義の狭間の中でいかなる歩みを示してきたのかといった点を具体的に検討することは、今後の英国契約法の行方について考える上で極めて重要な意義を有する作業となる。
 本報告では、以上の問題関心に基づき、契約の解釈準則、黙示条項、信義則、損害賠償の範囲、違約罰条項の効力といった問題に関する近時の英国の判例の展開につき、特にホフマン卿の提示した文脈主義的な諸法理およびその後の判例の推移という点に焦点を当てつつ、検討を行うこととする。

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