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社研での研究生活を振り返るーー感謝・反省・開き直り(加瀬和俊教授最終報告)
加瀬和俊(社会科学研究所)

日時:2015年2月10日 14時50分-16時30分
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F

報告要旨

 1991年に社研に赴任して以来24年間、教育・研究に従事することができました。大きな感謝・反省とともに、密かな開き直りも胸に秘めて、ひっそりと去っていきたいところですが、せっかくの機会を与えられましたので、研究面において何を考えてどのような課題に取り組み、暫定的にどんな結論を積み上げてきたのかについて、ごく簡単な報告をさせていただくこととしました。

 第一には、社会問題に対処するための経済政策の可能性と限界、第二には、労働市場の縁辺部に位置する自営業者や失業者(その予備軍を含む)の行動様式・志向、私が課題としたのは相互に関連するこの二点に集約できます。理論家ではない私は、この二つの論点を歴史・現状の中に題材を見出しながら実証分析の対象としてきました。関わったいくつかの小論争にも触れながら、自分の問題意識の意義について検討できればと願っています。

 具体的に取り上げる論点としては、第一の経済政策については、政策目的の構造、政策をめぐる利害状況、政策手段の制約等の具体的事情の下で、政策効果が当初の想定と大きくずれて新たな問題状況を生み出す経緯について、各種社会政策、失業対策、戦時統制政策等を事例に整理します。第二の自営業者等の行動様式・志向に関わっては、主として農家・沿岸漁家を対象として、その世帯のライフコースと経営の関連、就業選択と人口移動、農漁業団体の特質、農地制度・漁場制度の性格等にふれ、それらの在地的な諸要因が相まって政策当事者の机上の構想の効果を減殺する経路について検討します。

 社会科学研究所はこの間、研究視点を大きく変化させてきました。その中で個々の構成員の問題意識は対応的には変化しませんし、世代間・分野間・学派間の違和感も残らざるをえないでしょうが、多様な視点が共存し合える空間で、諸々の論点が摩擦熱を発しながら相互に互いの構成要素になれるような関係を願って、暫定的な自己小括を試みます。


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